文語日誌(平成二十三年八月某日)
土屋 博
なでしこジャパン
平成二十三年
八月某日
三月十一日の東日本大震災以降、暗きニュース世の中を覆ひ盡くすの間、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」の金メダル獲得は、稀に見る快擧と言ふべく候。
過去に二十四囘對戰し一度も勝つこと能はざりし米國チームを撃破したるは、奇跡と言ふほか之無く候。
主將の澤穗希選手以下「なでしこ」らの大活躍は、被災地も含め日本國民全體に多大なる勇氣と自信を與へ候處、國民榮譽賞を授與せらるるは、蓋し當然と思料仕り候。
女子のサッカーを始めたるはごく近年のことなれど、そもそも我が國には平安時代より蹴鞠の傳統ありたるを忘るべからずと存じ候。
さて、なでしこと言はば、古來多くの人々に愛でられ候花にて、
萬葉集にては、なでしこを詠める歌二十六首之有り候。
たとへば、山上憶良「秋の七草の歌」には、『萩の花、尾花、葛花、なでしこの花、をみなへし、また藤袴、朝顏の花』とあり候。(なほ、尾花はススキ、朝顏は桔梗の由)
また、大伴家持の、亡き妻坂上大孃を偲べる歌には、『秋さらば 見つつ偲べと 妹が植ゑし やどのなでしこ 咲きにけるかも』とあり候。
古今集にては、素性法師の秋の歌に、『我のみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕かげの 大和撫子』とあり候。(なほ、きりぎりすは「こほろぎ」の意味)
さらに、金槐和歌集にては源實朝の歌に、『ゆかしくば 行きても見ませ 雪島の 巖に生ふる 撫子の花』とあり候。
なでしこジャパン、かかる長き傳統有る「なでしこ」に新たなる息吹をば吹き込みたる、めでたきことに候。
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