文語日誌
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文語日誌(平成二十三年十一月)
     
                  市 川 浩

文語の苑シンポジウム  
平成二十三年十一月二十八日(月)晴 




 昨日東洋大學校内に於ける第一囘文語の苑シンポジウム、百人以上の參加者を得て盛會裡に終了す。文語の苑發足八年にしてシンポジウム開催に至るまことに感無量なるものあり。特に今囘は東洋大學の學長・文學部長を始め多くの方々より絶大なる御好意を給はり、白山キャンパスの二號館十六階のスカイホールなる素晴しき會場を御提供下されたるは、有難き仕合せなりき。我等がタスクフォースこの御好意に報いむとをさをさ準備怠らず。
當日開會に當り、學長竹村牧男先生より御懇篤なる御挨拶を頂く。その中にて東洋大學を創立の井上圓了先生、歐米を御視察後、哲學は日本哲學を主とし、西洋哲學を從とする教育方針を定めらると伺ひて感銘深くす。文部省(當時)にして言語教育は日本古典を主とし、西洋言語學を從と致しをればと、徒らに死兒のよはひを算ふるもおろかなり。
 愛甲代表幹事による基調講演「今なぜ文語か」、徳富蘆花の「自然と人生」の一節朗讀に始り、文語の優秀性と魅力を顯彰し、漢文、ラテン語と竝ぶ世界三大書き言葉の一つに位置附けらる。續いて熊澤南水先生による平家物語「敦盛の最期」の朗讀、敦盛を討つたる熊谷直實の心情をつばらに表現せらる。
 最後の講演「お江の手紙を讀む」小生擔當す。本年五月失神による突然の入院ありければ、一時は講演不能も案ぜらるゝを、幸ひ體調異常なく推移し、奇しくも大河ドラマ「江」の最終囘放映のこの日、お江の方の手紙を通じ、運命を受入れつつも報恩感謝の念を忘れず健氣に生くる、テレビとは別の角度よりその人柄を紹介せむと試みたり。書面實物の映像に就き、市瀬時人氏による絶妙のパワーポイント畫像操作によりて、説明順調に進み、豫定所要時間も大幅に節減し得たり。
 質問時間となり、三浦清宏先生より手紙の筆跡に就いての御質問ありたり。、當然假名書道のちらし書きの技巧を驅使せる高度の筆書なること申上ぐべきに、何たることか、これを完全に失念、答にならざりける。九仞きうじんの功一簣いつきけりと歸宅後慙愧の念頻りなり。つらつら反省するに、似たる經驗他にもあり。專門棋士の先生に指導碁を御願ひするの時、局勢を左右する手どころにて、普段考へられぬ惡手を打つこと屡なり。趣味のことと、深く考へず過しけるも、この反省處世に活かすべきを思ふ。
 然はあれど、二時間のシンポジウム參加者最後まで席を立つ人殆どなく、主題たる文語に眞摯の關心を寄する雰圍氣を感じ、文語復活運動の必ずや大いなる流れとなるを期待す。


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