文語日誌 |
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文語日誌(平成二十二年十月) 市 川 浩 生物多樣性 平成二十二年十月三十日(土)晴 人類の開發、消費活動の結果、生物種の絶滅速度に齒止め掛らず、地球生態系に重大なる影響を及ぼすとて、生物多樣性條約を締結、本年今月二十二日より名古屋市にて開催の第十囘締約國會議本日未明閉幕す。 曩には平成九年氣候變動枠組條約第三囘締約國會議を京都にて開催、温室效果ガス削減目標を設定せる謂はゆる京都議定書議決せられ、また本年ワシントン條約締約國會議にて地中海黒鮪問題あるは既に論ぜるところ、なほ國際捕鯨取締條約は日本、ノルウエーを除き捕鯨國の殆ど脱退を表明す。 是までの經緯を見る限り、我が國は誠實に各條約に對處せむとし、特に鳩山前首相は昨年の國聯演説にて平成三十二年までに温室效果ガス發生量同二年度比二十五パーセント削減の達成を表明す。然れども世界の超大國は兔角他國には條約の履行を迫るも、自國の國益を害ふ虞あらば、必ずしも積極的の態度を示さゞるの傾きあり。 今囘も特に遺傳資源を有する發展途上國と、これを利用して利益を享受せる先進國との間の確執表面化し、前者は「大航海時代」以來の累積利益の還元を主張するに至る。然れども最終的に兩者歩み寄り「名古屋議定書」の採擇を得たるは、餘りにも急速なる絶滅生物種の増大に全世界危機感を共有せるの徴なるべし。 チャールス・ダーウィン氏の「種の起源」は目覺しき發見にして人智大いに進みたる事論を俟たずと雖も、「適者生存」の理、一世紀半を經て今日漸く「環境適はざれば則ち絶滅す」と解するに至る。この間進化論に端を發せる「發展段階説」猖獗して、宛らトーナメントの如く、すべて單一の最終勝者あるのみとす。グローバリズムは其の最後の殘照なるらむか。 人間社會にても文化・言語の多樣性の重要なる、漸く世人の認むる所となるも、復た絶滅の事例多し。通信、通商の擴大發展の反作用各民族の傳統文化に影響を及ぼすに至れる、其對策環境果して十分なりや。文化・言語は學び習ひてこそ生きて傳はれ、其の意欲と共に環境整ふを要す。我が國にても近時、漢文大いに衰ふるあり。是漢學者の責には必ずしも非ずして、學生これを學ばずとも進學叶ふの環境がゆゑなり。人多くは現今漢文重んずるに足らずとするも、漢字傳來以後千五百年、漢學に習熟して克く日本文化・言語を發展深化せしめきたれる歴史を省みば、亦「文化絶滅」の危機に思ひを致さゞるべけむや。 |