文語日誌
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文語日誌(平成二十二年六月)
     
                  市 川 浩

共鳴現象  
平成二十二年六月二十七日(日)晴




 六月度の文語の苑ホームページに上架せるは、昨年十月二十九日本會にて發表の「政權交替」にして衆議院選擧壓勝を承けての鳩山政權發足に感想を述べたるものなるが、奇しくもこの月の二日鳩山首相竝びに小澤幹事長辭任す。菅直人副總理直ちに後繼首相に名乘を上げ、二日間にて大勢を制す。世上表紙の附替と酷評の向あるも、方に電光石火、内閣支持率忽ち恢復し、一氣呵成に參議院選擧の中央突破を目指す。かの本能寺の變後羽柴秀吉の大返しを彷彿せしめ、捗々しき對應無き野黨はさしづめ柴田勝家なるか。
 殆ど時を同じうしてサッカーワールドカップ緒戰に日本代表カメルーン代表を破る。岡田監督の采配これまで必ずしも好結果得られず、監督交替を求むる論調さへありしに、この一勝を機に評價一變し、更に豫選突破するに賞讚の嵐マスメディアを覆ひ盡くす。
 これら圖らずも先の大戰開戰時の國民の熱狂を想起せしむ。眞珠灣、マレー沖、シンガポール、コレヒドールと緒戰の勝利に山本五十六司令長官、山下奉文大將の人氣はテレビなき當時にして既に絶大なるものあり。然るに戰後既に半世紀を過ぎ、當時を知る人の數昨今急速に減少するに加へ、これを懷ひ出すを愧づるの傾きさへあり、この史實自體忘却の彼方に湮まんとす。人氣の移ひ斯くの如し。
 力學現象に共鳴あり、物體にその固有振動數に等しき振動外力を加ふれば、その振幅は無限に増大して物體を破壞するに至る。吊橋に於ける橋渡人の歩調、高層建築に於ける地震長波は往々夫々の固有振動數に一致するの危險あり。人間社會にても「琴線に觸る」、「魂を搖する」の語ある如く、人それぞれに振氣、振肢スいは振起せられて感動、昂奮す。その固有振動數の分布は各民族の特徴を示すものにして、我民族に敷衍して惟ふに、各人間の差異比較的少き特徴を見る。これ國民の統合には大いなる長所なれども、共鳴破壞の危險性亦高き短所を有すと言ふべし。特に熱し易く冷め易き國民性はこの危險性を増大せしむること過去一世紀の我が國の歴史に徴して明らかなり。
 この危險を輕減せむには外界より受くる振動を豐富なる情報により多樣化するに如かじ。戰前の情報不足はさらなり、言論・報道の自由保障ある今日なほ不足、偏向の感あり、鳩山政權時代喧しき物議を釀せる「普天間」、「郵政再國有化」、「永住外國人參政權」など今や殆ど議論なく、報道はもはらアンケート調査に終始し、參議院選擧は消費税以外爭點なきが如し。かくては國民が氣分により選びたる議員に國政を委ぬるに至る、安んぞ邦家の安寧を保たむ。


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