文語日誌
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文語日誌(平成二十二年一月)
     
                  市 川 浩

ゼネラルアーツ教育
平成二十二年一月八日(金)晴




 小島憲道東京大學副學長の「大學に於けるゼネラルアーツ教育」講演を聞く。先生は同大學教養學部長を經て現職にあり、現在殆どの大學にて教養學部廢止の趨勢下「ゼネラルアーツ教育」の在り方に就き、新渡戸稻造、矢内原忠雄の理念を受繼ぎつゝ、理系・文系の知識理解のバランス重視、英語による科學論文の作成訓練など往時には無かりし試みの紹介など主として教養學部に於ける取組を中心に説得力ある御講演なり。特に文理のバランス重視には滿腔の贊意を表すと共に、從來動もすれば洋學偏重なるを改め、和・漢・洋のバランス重視も望む感想文を小島先生に提出す。
 現状御報告の中に氣がかりなる點二件あり、一は現在高校にては理科の履修は二科目のみに留めらるゝの結果、大學受驗にて得點容易なる生物、地學のみを選擇して理類に合格、物理、化學の基礎を有せざる理工系學生の多き、二に「ゆとり教育世代」遂に大學入學年齡に達したるも、學力レベルの低下甚しく特別の對應を要すと云々。
 曾て大學入試科目より漢文を外してより、漢文を學ぶ意欲地に墜ち、日本人の基本教養たる漢籍の知識亡佚に瀕す。今物理も化學もその素養なくして焉んぞ理工の學を修めん、まして「ゆとり教育世代」に於てをや。國民かかる事情知らざるの間に知的活動の力減衰し、遂には邦家の知的獨立延いて政治的獨立をも喪ふに至らむ。「事業仕分け」にて科學技術の一流を目指すの要抑もありやの論もこの間の事情を反映すと見ば事態の深刻なるを知る。
 法律は國會にて審議の後成立公布せられ、一般國民も僅かにこれを知るを得。然れども比較的下位にある「租税特別措置法」など細則は一般の目に觸るゝ殊に稀にして、しかも行政の實行に決定的の效力を生ず。更に「學習指導要領」、「公用文作成の要領」など事實上教育、國語表記を支配する規則類の作成、運用は有識者すら殆ど與り知るなく、卻つてこれに通曉せる者行政を壟斷するに至る。かくて高校にて物理、化學は法的に必修に非ざれば、大學側の理工系志望者にこれらの試驗を課せむとするを非合法として斥く。
 この事態ITシステムのウイルスに對する脆弱性に比すべく、放置せば故意に國を害はむ者に跳梁の好機を與ふること、既にその例に事缺かず。「行政の無駄」排除はさらなり、「行政機構の脆弱性」改善こそ肝要なるらめ。


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