文語日誌
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文語日誌(平成十九年六月)
     
                  市 川 浩

プロジェクトX
六月四日(月)晴

 年金番號一元化に伴ふ基礎データの散佚五千萬件に達し、輿論沸騰し安倍内閣の支持率急落、社會保險廳歴代長官の責任を問ふ聲高まると報ずるあり。吾も年金生活者なれば心安からず。安倍總理一年以内の修復を宣言するも、實現を疑問視する識者亦多し。早くも夏の參院選與黨の敗北を豫想し、政權の交替を論ずるもあり。

 これらの論調を熟々考ふるに内閣の責任を追求するあまり、冷靜なる問題指摘無きを憾む。抑一億を越ゆる國民全員を對象とする年金管理の如き大量データの處理には電算機の裝置的の能力もさるべきに、運用的の機構に特別の工夫を要するは、論を俟たざる所、果して導入時の構想に不足無かりしや、亦運用の缺陷考へ及ばざりしや、先づ明らかにせずんば非ず。

 加ふるに氏名は同一人にても「廣澤」「廣沢」「広澤」「広沢」、振り假名も「ヒロサハ」「ヒロサワ」必ずしも一定せず、女子にありては「子」は通稱として用ゐるも多ければ「すえ」「すゑ」「すえ子」「すゑ子」など電算機はすべて別人に識別す。これらより同一人を同定する判別ソフトは戰後の國語改革による二重表記の罪過によりて、開發の困難計り知れざるものあり。

 但し今囘の一年プロジェクト、、源義經鵯越の故事もあり、又この程度の問題解決を能くせざれば、我が國の情報技術も鼎の輕重を問はるべく、成功は寧ろ易からむか。非效率の代名詞たる「御役所仕事」の效率化への突破口ともならば、當に禍を轉じて福と爲すべし。



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