文語日誌
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文語日誌
     
                  高橋秀子


南房總
五月三日(日)




 家族と南房總に行く。
 横濱なる家より車にて久里濱に行きて、フェリイに入りぬ。甲板に出でて、横須賀の海を見渡す内に、フェリイ、南房總金谷に向かはむと出航す。さはいへども、南房總は久里濱の向かひなるうへに、遠からぬ所なれば、船の發つ時よりその姿明瞭に望めり。
 船の進むに從ひて、あまたの漁船に出會ふ。それを眺めむと我等の立つ甲板には、風、かつは激しくかつは穩やかに吹く。吃水線には、白き飛沫の盛んに立ちたり。海を渡る樂しみ、海の力強さ等、感ずるもの多かりけり。
 やがて、南房總の新緑は近附き、金谷が港に至りぬ。港にては、釣りをなせる地元の子等が、手を振りて船を迎へけり。
 フェリイより降りて、車を驅りて南房總をめぐる。金谷より南に下りて、海沿ひを、鋸南、富浦、洲崎、白濱と訪ひぬ。富浦は枇杷の名産地なれば、「道の驛」にて枇杷の加工品を數多く賣る。白濱にては、白濱フラワアパアクに立ち寄りき。色とりどりの金魚草、ポピイ、パンジイ、藤等、庭に廣がりけり。その奧は海岸なり。はるかなる沖より寄せ來る波の、岩に當たりて碎け散るは、勇ましさを覺え、見飽かぬけしきなり。彼方には大島が廣がりけり。
 歸路のフェリイより見ゆる夕日の波間に射すが、いと美しかりけり。數隻のタンカアに出會ひぬ。船體に書かれたる文字を見れど、アラビアの船なるや、讀む能はず。海は、地球の大陸を分くとともに繋ぐものなりてふ思ひを新たにす。




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