文語日誌
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文語日誌
     
                  高橋秀子


横濱市歌



 横濱市歌は、横濱開港より五十年經ちける時、森鷗外が詩を作りて成りしものなり。それより來し方、横濱市民に歌ひ繼がるること百年。今年は、横濱開港百五十周年の一年なり。
 横濱市歌は、横濱市立なる小學校にて歌唱指導が行はる。我、横濱に生まれ横濱に育ちたれど、ここに通はざれば、市歌習ひしことなし。たヾ、我が父、伯母も横濱生まれ横濱育ちなれば、我も、市歌のあること父伯母より聞きしことあり。それを口ずさみたるを聞きしこともあれど、深くは覺えずなりしまま、二十三年が過ぐ。
 我、昨秋より、横濱開港百五十周年を記念する催し物に參加せり。それが活動の中にて、初めて、横濱市歌を習ひ、歌ふ。嬉しきことなり。加へて、驚きしこと多かり。一つに、詩の美しさ、希望に滿てる詞の連なり。一つに、この歌、三世代にわたりて歌はれたること。一つに、横濱市民の殆どがこれを知り、行事ある毎に歌ひ來れること。また一つに、幼子等が、元氣に樂しげにこれを歌ふ姿なり。彼等にとりて、鷗外の詩、なじみ深からず、解し難からん。されど、笑顏にて明るく歌ひをり。中には、この歌を大いに好むと言ふ子もありと聞く。いと頼もしき、喜ばしき心ならずや。
 我、これを歌へる市民にてあること、誇りにぞ思へる。


  わが日の本は島國よ
  朝日かがよふ海に
  連なりそばだつ島々なれば
  あらゆる國より舟こそ通へ


  されば港の數多かれど
  この横濱にまさるあらめや
  むかし思へば苫屋の煙
  ちらりほらりと立てりしところ


  今はもも舟もも千舟
  泊まるところぞ見よや
  果てなく榮えて行くらん御代を
  飾る寶も入りくる港





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