文語日誌
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文語日誌(平成二十二年九月)
     
                  小椋智美

七人の侍




 この日誌、九月茶苑月例會の爲に書きかけたるが、完成ならず十月に繰越せしものなれば、彼の出來事九月の事なり。


 殘暑の逃ぐるを追ひて秋冷雨に乘りて驅け來たる。寒さに急かされ秋深き裝ひにとりどりの傘差して人の行き交ふ街を歩くも氣乘りせず、映畫を見むとて名作と言はるる黒澤明監督「七人の侍」を選ぶ。
 昭和二十九(一九五四)年に公開されし作品なればモノクロにて音聲の聞き取り難きあれども、その迫力、魅力、如何許りや。戰國の世に、野武士に狙はるる貧しき山村に住まふ若者利吉、野武士を退けむと百姓の身にて侍を雇はむと思ひ街へ出で、僧に化け幼子の盜人に囚はるるを助けし侍、島田勘兵衞に出會ふ。島田勘兵衞一度は利吉の頼み斷るも、生死をかけたる百姓の姿につひに肯ひぬ。勘兵衞と彼の弟子を自稱する少年侍、岡本勝四郎を筆頭に、勘兵衞の「古女房」たる七郎次、參謀役の片山五郎兵衞、明朗なるムードメーカー林田平八、凄腕の劍客久藏、實の侍にはあらねども大男にして山犬の如き菊千代の面々を次々に仲間となりて、島田勘兵衞率ゐる七人の侍、食物と引き替へに村を城とし野武士四十騎を相手取る。
 百姓、侍、野武士それぞれの立場を描き、その個々にも特徴、ストーリーを與ふ。殊に常は威張りちらしゐたる侍の落ちて後の慘め、百姓の弱く卑屈なれども強かに生くる姿、描寫眞に鮮やかにして映畫表現の極地なるべし。滑稽なる演戲ののち、息詰まる殺陣あり、三時間半の大作なれど、たちまちに見終はる。
 次なる機會、「用心棒」、「椿三十郎」を見むとぞ思ふ。


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