文語日誌
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文語日誌(平成二十二年一月)
     
                  小椋智美

故 郷




 日本の都道府縣四十八あれど、人口鳥取に敵ふ所なし。最少の意なり。我が故郷倉吉また四方山に圍まれ、隣家を隔つ田畑數反、狐狸の出づること常のことにはあらねどまた驚くべきことにもあらず。一日數ふるほどに少なきバスに、最寄りといふべきコンビニまで十五分を要す。子少なく老人の多き土地なり。
 されど、春は金木犀の香り漂ひ、田に蓮華絨毯の如く、土筆、露草畦に生え、早苗の合間にお玉杓子の泳ぐ、麗らかなり。夏は蝉鳴きさわぎ、トマト大きに、たうもろこしの背高く伸び、笹の葉の音涼しく、蛙、蟲の音爽やかなり。ただ、蛙の中にも牛蛙の鳴きたるはうるさし。秋は栗、薩摩芋など美味多し。稻穗黄金に實り、その上を秋茜の飛びかふ。晴天美しきもこのころなり。冬、雪の朝散歩にいづれば白き雪に小さき鳥獸の青き足跡多く見ゆ。家に歸りて祖母の餠を小豆と砂糖にて煮て食す。美味なり。
 東京と比ぶるに趣を異にするも、なかなかによき場所なり。我、故郷を愛す。
(お茶の水女子大學 文教育學部 言語文化學科 二年)


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