文語日誌
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文語日誌(平成二十一年九月二十八日)
     
                  根本友利繪

音樂は我が心の友




 我元來音樂を聽く習慣無きも、何時の間にか、音樂無しの生活考ふる能はざるに至る。現在特に愛好せるは、ジョン・フィリップ・スーザ(一八五四〜一九三二)による行進曲なり。
 先月或る演奏會にて彼の曲を初めて聽く。行進曲を中心とせる演目にて、最後に彼の曲を現代風に編曲せる組曲演奏せらる。我戰慄を覺ゆ。肉體の奧深くを抉るが如き波動、そに呼應するは内臟破裂せむかと思ふ程の衝動。五體に喜び滿つるを感ず。此の時音樂の力に改めて氣づき、以後彼のCDを借り繰返し聽く毎日なり。
 スーザは米國の作曲家・吹奏樂指揮者にて、行進曲を約百曲作曲し「マーチ王」と呼ばる。ワシントンやフィラデルフィアの劇場にては指揮者・バイオリン奏者として活動し、一八八〇年にワシントンの海兵隊軍樂隊樂長となる。一八九二年には自らの吹奏樂團を結成す。米國の公式行進曲なる「星條旗よ永遠なれ」、「ワシントン・ポスト」、「雷神」等が名高し。
 彼の行進曲は單に明るきのみに非ず。一曲中に、勇壯快活なる主題と優美流麗なる主題巧みに織交ぜられめりはり有り。流麗なる主題も行進のリズムを失はず躍動感曲を貫く。又、各パートの掛合ひ緻密に計算せらる。例を擧ぐれば、「サーベルと拍車」なる曲中に、第一トランペットの主旋律(ソロ)に第二トランペット始め他の樂器次第に絡みて進行する部分あり。一筋の蔓に他所の蔓卷附き,新たなる線を爲して伸びゆく如し。
 彼の曲、遲滯しがちの思考活動を前進せしむるのみならず、憂鬱の淵に追詰めらるる折の救ひとなる。我嘗て十年程ピアノを習ひしも、演奏技術大して向上せざるまま抛棄しき。音樂を職業とする積り皆無とは言へ、十年間親の金を費やし目に見ゆる成果無き事に忸怩たる思いあり。然れど、其の十年の間に我が心に音樂を愛する種子播かれたるらむ。今後も音樂と共に歩まんとぞ思ふ。


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