文語日誌
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文語日誌(平成二十二年十二月十七日)
     
                  兒玉 稔

ニューヨークのリムジンカー



拜啓 師走の候、兄上樣初め御一統益々御壮健のことと存じ奉賀候。
 旅行より無事歸國致し候間、御報告仕り候。今次はまずニューヨーク(NY)に赴き、彼地より出づる船にて南下、カリブ諸島を巡り、またNYに戻りたる後、空路歸國仕り候。
 例の如く個人旅行なれば、宿、船、交通機關、觀劇切符、その他一切を小生が手配致候。電網の發達にて海外豫約隨分簡單に出來る時代に成候へども、道中の都度都度もしや誤豫約かと不安覺ゆる場面あるは、以前と變り無く候。
 しかるに同行の妻は一度豫約したる上は間違ひあるべからずと簡單に信込み、心配丸で無く呑氣なるものにて、我は間違ひ許されざる旅行添乘員の心理、妻は氣樂なる客の氣分に候。
 旅行手配中の最大難事はNY市内ホテルより波止場に至る足の確保にこそあれ。波止場は邊鄙の地にあり、さなきだに不勉強なるNYタクシー運轉手しばしば乘船場に辿り着けず、出航時間迫りて肝冷せる段、見當違ひの場に無理矢理降され大なる荷物を抱へて途方にくるる段、電網上、枚擧に遑無し。
 公共交通機關無く、タクシー頼るに甲斐無ければ、殘れる手段はリムジン車のチャーターのみにて候。然乍らこれにも別なる困難あり候。
 豫約の場所時間にリムジン來らざるのとき如何にすべきか、是なり。彼等は客が携帶電話有するを前提とし、客と會せざる時は電話連絡にて對處する所存に候。つまり米國用携帶電話持たざる我には事故時の辨じ方無き次第。ホテルの電話は室の勘定濟せば使用出來申さず。本件解決の方途無かりて困り果て候。
 腦漿を搾りたる末、これまでNYにては大規模ホテルに泊るが通例なれどもこれを變更し、受付が會計係を兼ぬる如きプチホテルの利用に思ひ至りたり。さすれば勘定後帳場脇にて車を待ち、必要生ずるの時は受付係を介しての交信可能ならむ。定めて名案なるべし。
 電網上に豫算内なる格好のホテルを探し當て、更にそがロビー、車到着を認め得る位置に在るをグーグルビューにて見屆け得心の上、豫約致候。
 同所に二夜を過し、乘船の朝、くだんの帳場にて待つうち、リムジン幸ひにも約束通りホテル前に出現せり。備へはあれども不測事態生ぜざるに如くは無し。波止場には定刻に着きたり。
 旅行中の最たる難所と身構へ居りし懸案、無事に通過。かてて加へてリムジン價格、タクシーより安價にて候。萬事申分なき次第にて我が安堵快哉御想像被下度候。
 なほ、この痛快事、妻に説明致せども然程の反應はあり申さず。
 右は御機嫌伺ひかたがた御報告迄。良き正月をお迎へなさるべくお祈り申上候。敬具

兄上樣                          稔


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