文語日誌 |
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文語日誌(平成二十二年五月二十四日) 兒玉 稔 船上の雀 今月、横濱より上海に行き韓國を巡りて横濱に戻る米國船クルーズコース、續けて二囘開催あり。 その二囘目に乘船す。航路二日目、甲板にてウォーキングに勵む時、物陰に蠢くものあり。止りて覗き見れば、餌を見つけ啄ばむ小鳥二羽、雀なり。寄添ふ樣、夫婦のごとし。 雀、渡り鳥ならず。常には町に住む。この雀、好天に誘はれ港見物に出、異國客船に心惹れ、探索せむと忍込みたるか。大なる船のここかしこ見物し疲れて休むうち、眠りに落ちぬ。やがて日暮て夜になり翌朝目覺むれば船は大海原の只中。見渡す限り陸地無く、我家の方角だにわからず。 あはれ雀、景色の變り樣にただ驚き、歸らむにもなす術知らず。ともかく夫婦二羽協力しこの事態乘切るべしと覺悟決めたるらむ。その後、折折に船内各所で見かくるに、いつも二羽一緒なり。 時には一羽、他の一羽を殘して船より飛立ち、しばしの後、飛歸るを見たり。島影求め飛上がり、右を見、左を探すも甲斐なく、吉報を待つ連合ひの下に空しく歸るものなり。 航路四日目未明、上海到著。船、住居高樓賑き岸壁に著く。爾後、探せども雀見ず。雀には檢疫入國の手續なし。上海の街に入てそのまま戻らざるものと思ふ。日本の雀、圖らずも中國の雀となれるか。 異國の雀と意思疎通し、良く群に交り得たるか。食物、水は身體に合ふか。新き地の新き生活を樂しめと祈り、時には故郷横濱を想へと願ふ。 ある人、心配に及ばずと言ぶ。彼等、上海萬博見物せむと船に乘りたり。定めて雀の新婚旅行なるべし。船内いづくにか隱れ、必ずや横濱に歸著すべきと。 更に別の説あり。彼等はもともと上海の雀なり。一囘目コースにて上海より横濱に來て觀光、そのまま二囘目コースに便乘して歸國せしものと。 |