文語日誌
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文語日誌(平成二十一年七月十三日)
     
                  兒玉 稔

親子相似るを想ふ



 (七月某日)
弔事ありて久しく會はざりし妹を訪ふ。看病に疲れたるその顏に二昔前逝きたまふ母の面影を見る。いまだかつて母と妹を重ねて見ることなかりき。妹、母が身罷りし齡に近附きしことを思ふ。


 (七月某日)
妻、居間にて新聞を讀む。後姿に聲かくるも應へず振向きもせず。近よりて見れば妻にあらず、我娘なり。妻のセーター羽織りしゆゑ見間違ひたり。妻と娘の顏立ち異なればこれまで誤つことなけれど、年經るにつけ身體つき親に似たるべし。娘既に成人し會社勤めも早や數年なれど、我が思ひの中なる娘は女子高生の頃に留まれることを知りぬ。


 (七月某日)
我妻、老眼鏡なくては字讀めぬ年となりたり。讀書の合間、老眼鏡かけて我に物言ふ身ぶり、妻が母、我義母に生寫しなり。その昔、この人と夫婦になる頃、友言ひしこと思ひ出づ。先は長し。彼女を見るよりもその母見るべし。やがてその母と同じき樣にならむ人と、共に暮らす覺悟今せざるべからずと。


 (七月某日)
朝、洗面所にて鏡の前に立つ。髭剃り具合など見るは毎度のことなれど、この日顏すべてを眺む。年相應に老けし我顏を見、ふと誰やらに似ると思ふ。しばしありて合點す。然樣、我父晩年の顏なり。


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