文語日誌
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文語日誌(平成二十一年一月)
     
                  兒玉 稔

銀行にて




 師走某日、我が會社の同僚、某有力銀行東京支店にて、我社の大阪なる取引先宛に急なる送金を依頼したり。同取引先は同じ銀行の大阪支店を使ひをり。
 あくる日、東京支店より架電ありて曰く、書類に不備ありて送金能はざるにより、來られたしと。先の同僚不在なれば、我、支店に出向きたり。



 銀行窓口氏、我に示すは送金依頼書宛先欄なり。これを見るに、我が同僚、山田株式會社代表取締役山田太郎なる宛先をすべて片假名で書きし折、タロウまで書くべきところ、タにて終へロウを書かず。されど送金先銀行名、支店名、預金種類及び口座番號全て正しく書きたれば、宛先特定に支障これあるべからず。なほ、別の取引に同じ書き樣にて同銀行問題とせず處理したり。
 我、客を呼び寄せて訂正せしむるほどのことにはあらじと一言抗議の後、ロウ書き足せり。



 窓口氏重ねて曰く、先の送金依頼不首尾につき、今次の送金費用、別に支拂ふを要すと。
 我に言はしむれば、末尾の二文字缺くとも尋常なる判斷力を以つてせば、當初の依頼書にて送金あるべし。非は、一字なりとも缺かば事務中斷との銀行内決まりを四角四面に當てはめ、送金せざりき銀行側にあり。よつて、追加費用無しにて送金すべしと聲高に主張す。
 窓口の議論聞きつけ現れたる上役氏、當支店はお客樣書かれしままの帳票大阪支店に送りたり。貴殿が言ひ分通り、瑣末な不備の故に書類戻せし大阪支店の事務よろしからずと述ぶ。然れども、舊送金依頼は既に無效。新規料金無くては送金ならずと繰り返したり。
 我、大阪にこそ非はあれ、大阪支店に追加費用負擔さすべしと主張す。
上役氏言ふやう、然り。されど當支店よりの指摘にては大阪支店非を認め難くこれが説得の難航必定。今次送金急を要せば、貴殿にて大阪支店と交渉すべしと。
 銀行内部にてなすべき交渉事を客に押し附くる卑怯の輩なり。



 我、急ぎ社に戻り電話にて同銀行大阪支店と交渉すること數次。その中途、かかる不見識なる銀行に免許與へしは金融廳なるべし、同廳に參上して免許再考を促さむと大言吐きしが效果にや、遂に當方の言ひ分通り本件の決著を見たり。



 話ここに終らず。我が同僚、同じ日に名古屋にも送金手配せり。大阪のこと成りて後、件の東京支店よりまた架電あり、名古屋支店への送金分も同じく戻され手元にありて我等困惑す。貴殿、大阪支店と同樣に名古屋支店を説得し賜れば有難き幸せと。
 何處まで客に仕事を押し附くるか。自ら問題解決せむとの霸氣なき呆れはてたる銀行員めと腹立たしけれど、名古屋支店にも架電して同樣に落著せしむ。疲れ覺えし日なりけり。
 世界有數なる資金量誇れる銀行が現場かくのごとし。


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