文語日誌
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文語日誌(平成二十年一二月一八日)
     
                  兒玉 稔

庭の樂しみ




 我が家に狹き庭あり。



 隣家迫りて建つゆゑ眺望といふべくも無けれども、陽當り、風通る。我この庭を好む。戸外用机と椅子二脚を置く。休暇の日、ここにて本を讀む、至福のときなり。



 春。この季節の大敵は花粉なり。庭に出づるに花粉症惡化を厭ひて大仰なるマスク着用すれども足らず。花粉目からも體内に入るといふ。目守らむと水中眼鏡着用を試みししことあり。頭締めつくるゴム不快にて長くはえ耐へざりき。
 庭に松あり。風吹けば黄色の花粉飛ぶ見ゆ。見るだにくさめ出づ。



 夏。暑し。近隣の目意に介さず裸にて庭にて過ごす。
 陽あたらばなほ暑し。パラソルを立てて陰を作る。陽の向き時とともに變はれば、これに合はせパラソルの傾斜を變ふ。風吹くときはパラソル搖るれば、更に頻繁なる傾斜調整を要す。



 濕氣高き日には蚊數多出づ。防蟲燈、電氣蟲除け器など試行錯誤し、蚊取線香隨一との結論を得。數個を周圍に焚く。これも風向きに合はせこまめに配置變更すべし。
 パラソル傾斜角度と蚊取線香配置が調整に忙しきうち日暮る。



 秋。陽射し對策は麥藁帽子一個にてよく、申しぶんなき氣候なり。すぐ冬となる。



 冬。氣温低く前夜の雪殘る時も、風止み陽差せば心地良し。雪の白、目を射るときはサングラスかくべし。どてら二枚を重ねて着、膝に分厚の毛布置く。座布團、靴下二枚、毛の帽子も必要なり。小春日和の日、文藝春秋讀むうちに暫し轉寢す。
 風邪引く前に内に入るべしと家人の聲。目覺むれば、時すでに遲くくさめ立て續けに出で、鼻洟長く垂る。



    北の國に娘を拉致されし人を思ひ
        思ひつつ惰眠むさぼりゐる我


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