文語日誌
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文語日誌
     
                  加藤繪里子


讀書感想文



 遠藤周作著『砂の城』を讀む。三人の若者の、自分にとりての幸福・善を求めつつ懸命に生くる樣描きたる青春小説なり。
 賢明なる判斷力を持ち、素直にて、いはゆる優等生に近き泰子、母と先輩兩人の夢なるスチュワーデスを自らも志望し、夢叶ひたり。トシは泰子の親友なるも、泰子の美貌や賢さに接してコンプレックスを抱き、或る詐欺漢に自ら近づきて彼の虜となりぬ。遂にはその男が爲に刑務所へ送らるるも、自らその男に身を捧げたることを寧ろ誇りと思ふトシに、泰子の壓倒せらるる場面、印象的なり。英語劇の練習を通じて泰子と知り合ひたる西は、左翼思想に傾倒し、やがて過激派集團の仲間となりて泰子の乘りたる飛行機をハイジャックするも、政府によりて射殺せらるる最期となりぬ。
 本の題名、三人未だ各々の道選ばざる頃、三人にて島原の海訪れたる時の思出を指すなり。泰子の、幼くして逝きし母の、泰子への手紙に書きたる、若き少女の頃の樣々なる思出、泰子ばかりか我にも何か訴ふるやうにて、實に感慨深し。思出の内容、言葉にては語り盡し難く、是非自ら本を手にとりて讀まれたし。この本、青春小説とは言へど、泰子の母の、泰子に殘したる言葉「善きこと、美しきこと」を人生にて見つくる試みは、青春時代のみならず生涯のテーマにてあるらむ。




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