文語日誌 |
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ラダック紀行(其之二) 仲 紀久郎 レーに著きし夜、同室の先輩ヨガマット、雙眼鏡を持ちて、「星をば見ん」と小生を誘ひぬ。小生も用意したる 星の數、濱の我家にて見ゆる十倍はあり。レー隨一のホテルなれば、建物明るく周圍に街燈多し。星の觀測には障礙なり。されど、星までの距離、手を伸ばせば屆くにあらずやと思はるる也。「あの星を取つて呉れろと泣く子かな。」電燈の發明以前は、星は斯くも近きものなりしか。北斗七星美し。天文知識の不足を嘆きぬ。 先輩はマット上にて瞑想に入りぬ。妨げとならんことを恐れ靜かに引上げぬ。 翌日、ウレトクポの宿。同室者、我に遲れて歸室、「星、見事なり」とぞ云ふ。二人して外に出でぬ。「街道まで行かん。」 ホテルの門、既に閉ざさるれども、門番氏、笑顏にて開錠開門す。 「何と・・・」横濱の百倍、千倍の星と云はんとも誇張に非ず。高解像力の天體寫眞目前に有るが如し。夜空の白く輝きたる。眞に星月夜とは斯くの如きか。暫く見惚れたるも、門番氏を長らく待たせんも心苦しく、心は後に殘れども、思い切りをつけざるを得ざりしなり。 余、 ▼「日々廊」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |