文語日誌
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文語日誌
     
                  
市川 浩

婚外子 平成二十五年九月四日 (木)


 正式の婚姻關係の無きまゝに生まれたる子、謂はゆる婚外子、親の遺産の相續には、その嫡出子の半額と法に定む。この規定、憲法に定むる法の下に平等の理念に反するに非らずやと、長く繋爭行はれけるを、最高裁判所本日裁判官十五名全員一致にて、憲法違反と判決す。理由として婚姻、家族の形態多樣化進みて、婚外子なる自ら選擇又は修正能はざる事柄によりその相續分を區別する合理的根據失はれたりと云々。
 婚外子の相續分を如何にするかに就き、種々の議論あるは當然にして、今囘判決にある如く「婚姻、家族の形態多樣化進む」状況に對應するには、結婚に關し社會的、文化的影響への多面的の考察を要すれば、その法律の制定或いは改正は本來國會即ち立法府の機能にして、衆參兩院の審議を經て適正なる法體系を整備するを本則とす。
 一方最高裁判所の「憲法違反」判決を理由に法律の制定又は改正の實現せるは、現憲法施行二十六年後の昭和四十八年尊屬殺人への量刑問題以來、今日まで四十年の間、今囘九例目にて、頻度増加の傾向明らかなり。主として法理論にのみ立脚する司法を通じて「憲法違反」を爭ひ、一たび最高裁に勝訴せば、己が欲する法律の制改定への近道たりとは、何の爲の政府、國會なりや。
 又憲法違反の根據として從來「戰爭抛棄」(第九條)、「法の下の平等」(第十四條)、「國の宗教活動の禁止」(第二十條)などあるに加へ、「自ら選擇又は修正能はざる事柄」なる文言今囘の判決文に登場せるに注目す。この文言憲法原文になく、同第十四條の「人種、信條、性別、社會的身分または門地」による差別禁止を「信條」を除きて一般化せるものの如し。然れども「自ら選擇又は修正能はざる事柄」は人生に於て無限に發生すること言を俟たざれば、無限の擴大解釋亦可能なることに思ひを致さざるべからず。戰前政黨間の論爭に用ゐたる「統帥權の干犯」、後に軍部の利用する所となり、終に軍による政治支配への道を開きたるを想起せば、善意の差別撤廢の積りも、次第に解釋擴大せられ、我が國の社會文化の破壞に至るを危惧せざるを得ず。
 仄聞するに憲法第十四條にいふ「法の下に平等」には學問的に、法律行爲に於ける當事者間の平等を指す説と、それのみならず、更に立法行爲其ものに平等を要求する説との二樣の解釋あり、現在は後者の説有力なりと云々。法律に素人の懸念なれど、後者に從はば、所得や資産により税率を定むる税法、同一犯罪に對する量刑に裁判官の裁量を認むる刑法等にさへも憲法違反の疑ひ提起せらるゝ懼れなしとせず。
 恰も正反對の解釋生ずるは、占領軍提示の英文を須臾の間に飜譯せるが故ならずや。英文竝びに憲法原文兩者を左に併記してandの解釋にその因あるを示さむとす。
 All of the people are equal under the law and there shall be no discrimination in political, economic or social relations because of race,creed,sex,social status or family origin.
 すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別されない。





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