逍遥亭>「文語の苑」開設を祝ふ 市川 浩
推奨環境:1024×768, IE5.5以上





「文語の苑」開設を祝ふ
         平成十五年四月二日  市川 浩
            ●「申申閣」ウェブサイト


 罷り出で候者は、年頃歴史的假名遣竝びに正漢字の復活を願ひて、正統國語ソフトを開發し、國語問題協議會の活動にも加はれる者にて候。さても此度電網上に「文語の苑」なるサイトの立上げ、愛甲次郎氏外有志にて企てられ候間某も幹事として合力申し候。今日たサイト花々しく開設致し候程に祝ひ言に一文奉らむと存じ候。

 それ日本國は言靈の幸はふ國、皇祖天照大御神の御弟須佐之男命初めて三十一文字を詠み給ひしより言の葉世々榮え、軈て漢字入來たり、阿禮の口傳へも安萬侶が文字にて今に傳はれり。かの人丸、憶良、赤人も言靈の助くる國、幸はふ國を富士の高嶺と語り繼ぎ、言ひ繼がひけるこそ畏けれ。假名文字貫之を得て三十一文字も彌榮に、あめつちいろは千字文の手習普く、歌ごころ弓矢の武士はもとより好からぬ盜人までをも和せるを敷島の國振とぞ謂ひける。道元禪師和語、漢語、佛語を綾に織り成して佛道を説き給ひ、世阿彌の詞章に甦るもいとめでたし。西鶴、芭蕉、門左衞門が詞藝の花咲くや難波の僧契冲、深く言靈の源を探り遂に假名遣の法則を見出し、年隔てて宣長これに續けり。

 永き世に亙りて言靈の流れ、汲めども盡きぬ泉の水の大河地を潤すが如く、文語を育める事かくの如し。漸く忙しき世となれば、新しき言の葉の流を引かむとて文人らの苦心工夫は鴎外、漱石に至りて遂に口語體の完成を見たり。この口語體古よりの言靈の幸を承け、文運いよよ盛んなりしに、小賢しき人々、現代假名遣、當用漢字なる泥、砂數多投込み言靈の本の流れを堰止めければ、年經る毎に水は涸れ、地も瘠せ、言の葉の凋るる世とはなれり。

 衰へ瘠せたる國語の土壤を再び肥やさむに、かの言靈の本の流れの水と藻と魚とを先づ恢復せざるべからず。ここに水は歴史的假名遣・正漢字、藻は古典、魚は我作る文章・詩歌なるべし。その意は、水に棲む魚の同じ水に茂る藻を食ひて育つ如く、文章・詩歌の上達に古典とその依りて立つ歴史的假名遣・正漢字の必須なるを言ふなり。このこと殊に肝要なるに、識者口には言の葉の貧しきを憂ふれども、なかなか渉るに便なりとて、再び本の流れを引くは「徒に難しう」と兔角世人に阿るの多きは返す返すあさまし。

 かくして今の世に歴史的假名遣・正漢字にて出版をなすは至難となるも、電網に上梓するはいと易ければ、弱年初學の人の眼にも觸るること多かるべし。此度の「文語の苑」大いに會員に門戸を開き正統文語文の投稿を待つあり。多く來苑ありて詞藻の魚盛んに放たれ、言靈の本の流れ再び地を潤し沃土に言の葉繁らむこそ待たるれ。


▼「逍遥亭」表紙へ戻る
▼「文語の苑」表紙へ戻る