粤王寓>「岡崎研究所転居御挨拶」岡崎久彦
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 岡崎研究所転居御挨拶  
 
 平成二十四年吉日 岡崎久彦       


 文語の苑のご繁栄まことに目出たく存じ奉り候。
 またこの度は、『候文の手引き』御出版、文語普及の御事業のますますのご発展を慶賀奉り申し上げ候。

 さて最近小生研究所転居致し候に尽き、一言ご挨拶申し上げたく候。
 従来の虎ノ門の事務所、もともと建物の老朽甚だしき上に、昨年の大震災あり、壁のひび入り激しく、改築のための立ち退きを迫られ候。
 虎ノ門事務所は、事務所ビル中においては珍しく瀟洒たる内装にて、快適優雅なる滞在を享受しつつ御座候間、去りがたき思ひ切なるもの御座候へども、かくなりては、我が身の栄耀栄華もここまでと覚悟致し、いかなる陋屋に落魄するも、わが情報の事業を細々と続けんと覚悟したる次第にて御座候。
 かくして分に応じ候住居を求め居り候間、いかなる天の配剤なりや、その名もパレ・ロワイヤル、外国人には、恥づかしき余り発音も憚れる物件に巡り合ひし次第に御座候。
 伝ふるところによれば、かつては、政界の業師、怪物など、魑魅魍魎の跋扈せし館にて御座候。英語にすればパン・デモニァムにて御座候はんか。然れども、近年壮麗なる国会議員事務所建設され、住民も漸次立ち退き候故、岡崎研究所の如き零細なる研究所にも借用可能となりし由に御座候。
 皇城鎮護の日枝神社の神域にて、霊気あまねく、もし文語の苑の諸賢、仙客来たり遊び賜はんには、魑魅魍魎も影潜め、金波銀波の波静かとなること必定と存じ候につき、おひまの折には御枉駕賜れば光栄と存じ、ここもとお願い申し上げ奉る次第に御座候。  


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