粤王寓>「陸奥万国史」岡崎久彦
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  岡崎久彦


  陸奥万国史       


中外六大洲治亂
上下三千年興亡
茫々宇内無義戰
強食弱肉似屠場
讀來瑞氣蕩眼底
一篇米國獨立章
 陸奧宗光讀萬國史詩
 平成庚寅 久彦粤王


中外六大洲の治亂
上下三千年の興亡
茫々として宇内義戰無し
強食弱肉屠場に似たり
讀み來りて瑞氣眼底をあら
一篇米國獨立の章
 陸奧宗光萬國史を讀むの詩
 平成庚寅 久彦粤王


  題は、「萬國史書を讀むの感」とあり、『福堂(陸奧の号)詩存』の中に、明治十一年の獄中の詩の一として記載す。
  幕末明治を通じて、疾風迅雷の如き人生を送り來たりし陸奧、獄中漸く閑暇を得て、世界史を通讀せし折の印象を記せる詩ならん。
  米國、やがては、世紀の變はり目において、マッキンリー、セオドー・ローズベルトの共和黨政権時代には、パナマ、ハワイ、フィリピンなどに於いて、弱肉強食、屠場に似たる帝國主義競爭に自ら參加せしも、當時は未だその二十年前、ワシントン、ジェファソンの建國の精神を墨守せし平和人道國家として、明治の人々の憧憬の的なりき。
  福澤諭吉、また、アメリカ人と聞けば、日本中何處に旅行するも歡迎せられ、安全なりと言へり。
  陸奧、やがては駐米公使(現在ならば大使)となりて米國理解を深め、滯米中に不平等條約の改正交渉に成功し、また、日清戦爭においては、講和條約の斡旋を米國に依頼したるなり。
  その後百年餘、日米關係は轉變を重ねしも、現在、日米安保條約の下に日本の運命を託す日本外交の現状を見れば、陸奧として、以って瞑すべきものあらん。  


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