岡崎久彦 - 朝鮮史散策 - 十七 |
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岡崎久彦 其の十七 人生意気に感ず 唐詩選巻一冒頭の『述懐』は魏徴の作なり。 魏徴初め李密に仕へ天下を窺ひしも、李密とともに唐に降る。つぎて唐の皇太子李建成に仕へしも、皇太子は皇弟李世民(唐の太宗)と争ひ敗る。然れども太宗魏徴の才を愛し、粤を征するの大任を託す。この時兵を率ゐて函谷関を出づるに當たりて賦したるが『述懐』なり。 中原また鹿を逐ひ (天下の争奪に参じ) 筆を投じて戎軒(戦争)を事とす 縦横の計は就らざれども(前半生の挫折を言ふなり) 慷慨の志は猶ほ存せり 策に仗りて(杖をつきつつ)天子に謁し 馬を駆りて關門を出づ 纓(紐)を請ひて南粤を繋ぎ(縛る) 軾に憑りて(戦車の手摺によりて)東藩(南東の諸州)を下さん 鬱紆高岫に陟り 出没 平原を望む 古木に寒鳥鳴き 空山に夜猿啼く 既に千里の目を傷ましめ また九逝の魂を驚かす (以上行路の難を言ふなり) 豈 艱険を憚らざらんや(行路の難は誰しも厭ふが) 深く國士の恩(國家的人物として遇せられし恩)を懐ふ 季布に二諾無く 侯贏は一言を重んず(共に一言然諾を重んぜし故事) 人生意気に感ず 功名誰かまた論ぜん 朝鮮史散策の本題より外るるも、魏徴の名に接して、往時感動せしこの五言古詩忘れ難く、ここに改めて記す。 ▼ その十八へ ▼「侃々院」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |