岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の六
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『蹇蹇録』 其の六  岡崎 久彦


日本政府の祕策とは、朝鮮内政紊乱の本を匡(ただ)さずば内乱の再發は避け得ずとの理由の下に、日清兩國により朝鮮の内政を改革せんとし、その間日清兩國の駐兵を繼續せしめんとするにあり。この案の決定に際し、陸奧は一日の猶豫を乞ひ、熟慮の末、「清國政府は十中八九まで我が提案に同意せざるべし」と判斷、その場合わが國獨力にて改革を實行する旨の方針を追加し、閣議決定と勅裁を得ておきしものなり。


もともと朝鮮を屬國と見做す清國が、日本と對等の立場での共同改革に同意するはずもなく、まして日本單獨といふことは實際上日本の保護國化であり、これを容認するはずもなく、これ即ち戰爭決意の上の提案なり。


「今やわが外交は、百尺(せき)竿頭一歩を進めたり。もし清國をして、・・・いやしくも我が提案を拒絶するに及べば我が政府固(もと)より默視する能はず。よつて將來あるいは日清兩國の衝突を免れざるべし・・・しかれどもこの決心や、最初帝國政府が朝鮮に軍隊を派出せし時には已(すで)に定めたる所なれば、今に及びて毫も躊躇するの謂(い)はれなし。


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