岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の三十五
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『蹇蹇録』 其の三十五 岡崎久彦


獨の向背についても陸奧は觀察せり。


「三國干渉の由來は、右の如くその根本は露國たる事勿論なれども、露國をしてかくまで急激にその猛勢を逞しくするに至らしめたるは、實に獨逸の豹變に基因したり。」


獨豹變の理由の説明として、陸奧は當時莫斯科(モスクワ)新聞が比斯麥公(ビスマルク)の言動を解説したる記事を引用せり。曰く、「比公が今囘の擧を贊成したるは決して極東における獨逸の通商貿易の利益を保護せんといふ如き陳腐の説に非ず、眞に獨逸國の幸福のため必要なる露獨の親交を恢復し、事後相提携するに至るべき階梯を作らんが爲なり。故に公は斷言せり。獨逸は露國の太平洋面に不凍港を得んとし朝鮮を經て鐵道を貫通せんとする希望に對し一も故障を言ふべき理由なし。乃ち獨逸は佛國の阿弗利加(アフリカ)等に對する政略に同感を表したる如く、露國の東洋政略にも同感を表して可なり。黒海すらも今は既に獨逸に取りては利害の關係甚だ深からず、況んや朝鮮海においてをや。」


比斯麥公は既に隱退せしが、比公外交の最高傑作と稱されし墺露との二重保障條約をカイゼルが解消し、積年の露國との友好の絆を斷ちし事を痛惜せり。よつてここに、カイゼルの三國干渉參加を支持せしものなり。


なほ、獨は「流石(さすが)にその當日まで何らの違言もなかりし日本に對し忽然反目するは隨分心苦しき業にてありたりけん、」遼東還付の代償として日本が償金を請求するを支持する等、日本に對して友好的姿勢を示すに苦慮したり。


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