岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の三十三
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『蹇蹇録』 其の三十三 岡崎久彦


陸奧が最も信頼せし外交官は駐露西公使たり。蹇蹇録第二十章は、干渉受諾直後の 西の電報を長文を嫌(いと)はず記載せり。


「一國運の興隆に當り、百事進歩の際、かかる困難を見るもまた珍事に非ず。かつ我 においては進まるる処まで進み、居らるる処に止まり、既に餘念なき義に候へば、今更不出來の往事を説くも無用かと存じ候へども、當國の遽(にはか)にこの干渉に決したるは全く獨逸の同盟を得たるに由りしものと存ぜられ候譯は、それまでは英既に干渉の意なく、佛また事已に遲しとして逡巡し、當國(露)政府部内においても威海衞の陷るまでに干渉すべきはずなりしに、今日に至りては假令佛と共に海軍を以て日本に迫るとも、これを支持する陸兵なき以上は如何ともする能はざるべしとの説を持する人多かりしは事實にて、--- その時分の電報になほ干渉あるべしと申し添へ置き候たるは念のために報じ置き候次第にてこれあり、--- 右獨逸の擧動の意外なりしには當國人までも驚き候次第にてこれあり候処、今そのこれに決したる所以といふ一説を聞くに、同國において兼て露佛同盟の親密なるを嫌ひ居る処に --- 日清戰爭終結の難問起り、英退き、露窮するを見、獨これを好機會として遽かにこれに投じたるは、東西洋、利害關係の大小に應じ露佛に謝意を表して仲間入りの策を行ひしに外ならずと。」


陸奧評して曰く「所論明晰、詳密にして、今日なほ歴々その見解に誤謬なかりしを 證す」と。


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