岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の十九
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『蹇蹇録』 其の十九 岡崎 久彦



日本の勝利に当り、列強の瞠目せしは、単に日本軍の精強にとど まらず、日本の文明度なりき。


「元來歐米各國は我が國比年歐州流の軍政、軍紀を採用するを見て、その心中竊かに日本は文明的軍隊組織を摸擬するを得るも、果して能くこれを運用し得るやと疑惑したり。軍事上においてのみ然るに非ず。さきに我が國が法典を改正したる時においても、彼らは新法を目して實用に堪へざる空文と嘲り、歐米諸國民をして我が國法權の下に立たしむるを危ぶみたり。これかつて條約改正の事業に對して莫大な故障を起したる第一原因たりし。またその後我が國が立憲體勢を創立するを見て、彼らは歐州以外立憲政體の實在望むべからざるが如く思惟し、當時種々聞くに耐へざる批評を下したることあり。
然し而して今囘戰勝の結果に由り、竟に彼等をして始めて耶蘇(ヤソ)教國以外の國土には歐州的文明生息する能はずとの迷夢を一覺 せしめたるは、我が國民のために氣を吐くに足る快事と言ふべし。」


日本の勃興は、白人帝國主義時代において、アジアにおける一筋の光明なりき。そは、日露戦爭の勝利によりて更に確定するも、日清戦開始月余にして已に識者の刮目せる所なり。


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