岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の十八
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『蹇蹇録』 其の十八 岡崎 久彦



開戦後一ケ月余を経て、平壤および黄海戦勝の報、全世界に伝は れり。


「この頃、佛國人の感情を寫したる一新聞に言ふ。『花木ある家 の門前は人集まりて市を成す。今や日本はその清國に向かひて得た る戰勝に比すれば、更に歐州に對して一層偉大なる勝利を獲たりと 言ふべし。今後日本は不羈獨立して、その爲さんと欲する事を專行 し得べし。また日本人は勝手に敵國の土地を略取し、またこれを蠶 食するを得べし。これを約言すれば、日本人は、他の勢力ありと自 覺する國民と、同一の行爲を執るを得べし。』」


時まさに帝国主義時代なり。力即ち正義の時代なりき。欧米の新 聞は早くも、日本なる新帝国主義国の勃興を認識、その将来を予見せり。
他面、陸奧は、新日本帝国に迫り来る危險にもをさをさ注意怠ら ざるものあり。


かくして「口を極めて過賞する邦國ある間において、露國政府 は漸くその艦隊を蘇土(スエズ)運河に由り極東の方面に囘航せし むるため日夜多忙を極めて居たり。眞に、これ禍福倚伏(いふく)、 塞翁の馬も啻(ただ)ならずと言ふべし。」


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