岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の十四
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『蹇蹇録』 其の十四 岡崎 久彦


「そもそも條約改正の大業は、維新以來國家の宿望に係り、これ を完成せざる間は維新の鴻業もなほ一半を剩(あま)すに均し」「倫 敦における條約改正の事業は百難のうち僅かに一條の活路を開き進 行する間に、今は漸く彼岸に達すべき時節こそ到來せり。」 そは明 治二十七年七月十三日なりき。「余がこの電信に接したるはそも そも如何なる日ぞ。鷄林八道(朝鮮半島)の危機まさに旦夕に迫り、 余が駐朝鮮大島公使に向ひ、『今は斷然たるの處置を施す必要あり。 何らの口實を使用するも差支へなし。・・・』と訣別(交渉決裂)類似 の電訓を發したる後、僅か二日を隔つるのみ。余がこの間の苦心慘 憺、經營大忙なりしは實に名状すべからず、しかれどもこの喜ぶべ き佳報に接するや、とみに余をして積日の勞苦を忘れしめたり。」


不平等条約の撤廃は、実に開国以来、独立国日本の最大、最重要 の課題なりき。迅雷の如き速さで朝鮮半島を經略せると同時に、こ の大問題を処理した陸奧の寢食を節しての尽力、それが達成されし 時の達成感、喜悦、右に引用せる原文の中に躍動せり。一言の追加 説明も要せず。


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