岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の十三
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『蹇蹇録』 其の十三 岡崎 久彦


他面李鴻章に同情すべき点ありとせば、それは清廷内の嫉視、内 訌なり。


「各省に割據する宿將、老臣は、常に彼の勢力の旺盛なるを嫉妬 し、・・・ 敵視したり。」


日本に機先を制せられ、清国側の立場が困難となりし後、清廷は 「熟議を盡くさずして日本提案(共同改革)を無碍に拒絶したる 事、舊交ある日本との關係事件を擅(ほしいまま)に露國政府と謀 議せし事、皇太后還暦大典の時に方(あた)り不祥なる戰爭を惹き 起さんとしたる事を以つて彼を罪せんとせり。」これを陸奧は「衞 侯が彌子瑕(びしか)の桃を咎めたるの類(彌子瑕桃を食ひて甘し とし、半ばを以て君に啖はしむ。公、我を愛すといふ。後に君寵衰 へ、嘗つて我に餘桃を啖はしむとして罪されたる故事)にして、實 に前後矛盾、棒腹に耐へず」と評す。


陸奧は更に註して曰く、「もし清廷が速かに李鴻章の建議を容 れその軍兵増發の計を實行せしめたらんには、開戰の時なほ優勢な る兵力を有し得たりしならん。」と。


「今や國運の死活まさに眼前に迫らんとするの際、北京政府は徒 に黨爭を逞しくし、この兒戲的譴責(けんせき)を加へるに至りし は、清國政府自らその國家を殺すものといふべし。」


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