岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の十 |
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『蹇蹇録』 其の十 岡崎 久彦 清國政府は、天津にて李鴻章よりロシアに干渉を依頼せる一方、 北京にて總理衙門が英國の仲裁を受け容れたり。英國はその老練の 外交の下に、朝鮮内政改革について日本案を取入れ妥協を計りしも、 日本がロシアの強壓に屈し撤兵するを期待せる清國側は、前言を飜 して、英國案に眞面目には取組まざりき。 「元來、清國政府は始めより外交上必須の信義を守る事を知らず、 自家焦眉の急を救ふに切なるがため、あたかも一女に向ひ二婿を贅 招(ぜいせう)する如き拙劣なる外交手段を執り、終(つひ)に自 ら孑孑(けつけつ)孤立の境界に陷るを悟らざりし。」 と陸奧は批判せり。 英國よりの干渉もまた來たるが、陸奧は、ロシアは「不測の大志 (將來の朝鮮、滿洲の占領)を抱き居る如く見ゆるものに比すれば」、 英國は武力に訴へる氣はなし、と讀み切り、戰火が英國利權の中心 たる上海に及ばざる事を保證して英國の干渉を凌げり。 ▼「蹇蹇録」其の十一へ ▼「侃々院」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |