岡崎久彦 - 蹇蹇録 - 其の壱 |
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『蹇蹇録』 其の壱 岡崎 久彦 「 總て外交上の公文なるものは概ね一種の含蓄を主とし、その眞相を皮相に露出せしめず、單にこれを平讀すれば嚼蝋(しやくらふ)の感なき能はざるもの往々にして然り・・・これを譬ふれば公文記録は、なほ實測圖面の如く山川の高低深淺ただその尺度を失はざるを期するのみ。もし更に山容水態の眞面目を究めんとせば別に寫生繪畫を待たざるべからず。」 陸奧宗光著『蹇蹇録』の緒言である。 ここに文語文の面目躍如たるものあり。「嚼蝋」は「砂を噛む」より、その味氣なさの含蓄より深きものあり。「山容水態の眞面目(しんめんもく)」は口語にては「山のたゝずまひ 水の流れのありのまゝの姿」とでも記すべきか。されど「眞面目」の語の内包する山水の容姿の迫力、威容に及ばず。 蹇蹇録が政治家の備忘録とて、チャーチル、ドゴール、キッシンジャーのそれを凌駕する高い文學性を有するは、この陸奧の執筆の動機、意圖より來たる。 以下、蹇蹇録中の名文雅辭を拔萃しつつ、その内容の紹介を試みむ。 ▼「蹇蹇録」其の弐へ ▼「侃々院」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |