侃々院>[近衞上奏文]解説 市川 浩
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近衞上奏文解説 市川 浩



■第十囘


是等軍部内一味ノ者ノ革新論ノ狙ヒハ必スシモ共産革命ニ非ストスルモ、コレヲ取巻ク一部官僚及民間有志(之ヲ右翼トイフモ可、左翼トイフモ可ナリ、所謂右翼ハ國體ノ衣ヲ着ケタル共産主義者ナリ)ハ意識的ニ共産革命ニマテ引キスラントスル意圖ヲ包藏シ居リ、無知單純ナル軍人之ニ躍ラサレタリト見テ大過ナシト存候。此事ハ過去十年間軍部、官僚、右翼、左翼ノ多方面ニ亙リ交友ヲ有セシ不肖カ最近靜カニ反省シテ到達シタル結論ニシテ此結論ノ鏡ニカケテ過去十年間ノ動キヲ照ラシ見ル時、ソコニ思ヒ當ル節々頗ル多キヲ感スル次第ニ御座候。


「取巻ク」は略字、「取卷ク」、「躍ラサレ」は「踊ラサレ」の誤記ならむ。「身を躍らす」、「人形を踊らす」の差あり。


「所謂右翼ハ國體ノ衣ヲ着ケタル共産主義者ナリ」は前段「國體と共産主義の兩立論」に照應す。少壯軍人らこれに踊らされたるは、畢竟するに我國に於ては大正以來共産主義を彈壓するのみにて、正しく理解・批判する學問的努力の不足が原因ならむ。


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