加藤淳平 - 日本の文化傳統、如何にして切斷せられしや(後篇)- 八
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや(後篇)
                  加藤淳平


 岸信介と安保騒亂


 岸信介首相、戰後日本政治の第一人者にして、全身全靈もて、日本の眞の獨立と、獨立日本の外交確立に取組みたる、無私の大政治家なり。日米關係の不平等を匡し、對等なる國と國との關係を築かんとせる、日米安全保障條約改定、そが第一歩なりき。然れども國民大多數、安保條約改定の意義を理解し得ず。安保條約改定に反對せるに非ず。意義を理解し得ざりしのみ。


 言論界、政府の意圖、政策を、國民に平易に解説せば、反對運動起らざりけむ。されど占領下に植附けられたる、日本政府の政策、行動全てを批判する習性より、日本の言論界擧げて、岸内閣の安保條約改定に反對せり。戰時中の閣僚たりし岸の、戰後日本を古き日本に引戻さんとするは、許し難しとて論難し、國民大衆、亦言論界の激越なる反岸論調に引摺らる。斯くて報道界の點火せる安保反對運動、日本全國を震撼せる騒亂に擴大せり。


 岸は安保新條約成立を見届け、首相の職務を辭任す。按ずるに岸、新安保條約の日米關係を正常化せしめたる後、憲法を改正し、占領期體制の變革を意圖せるならむ。されどそは、安保騒亂に阻まれぬ。言論界と占領期利得者等、能く日本の眞の獨立を、妨ぐるに奏功せるに非ずや。


 安保騒亂の激しき騒亂となるは、言論界の書立てたる如く、岸の政策に輿論の反撥せるに非ず。多數の國民の動きしは、占領時代より蓄積せられたる反米感情の、一擧に爆發せるに因る。占領時代より、日本輿論の動向を正確に把握せる米國、直ちに安保騒亂の性格を理解せり。日本國民の反米感情を和げんが爲、適切なる策を講ず。


 之に反し日本の言論界は、占領期より打續く自己檢閲と、現實を見る目の曇りより、反米感情の爆發を直視し得ざりき。戰爭協力者たりし岸に輿論の反撥し、岸の、米國よりの相對的獨立を指向せる政治路線に、國民は反對せりと解釋す。政治家等亦、斯かる解釋に同調せり。


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