加藤淳平 - 日本の文化傳統、如何にして切斷せられしや(後篇)- 六
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや(後篇)
                  加藤淳平


 吉田政權の繼續


 獨立回復せる日本に本來望ましきは、米軍占領の終りたるを内外に宣言し、憲法改正等、占領軍の殘したる負の遺産を除去する作業に、取組むに非ざりしや。占領下日本に言論の自由無く、占領軍の檢閲・洗腦工作の、日本人の思考を歪めたる實相をこそ、日本國民に知らしめましけれ。


 されど日本政府首班吉田茂、機會主義者の本性を現し、公益より私利を優先す。占領期より續く自政權の正統性を守らんとし、占領時代の政治の實相を隱蔽せり。占領下日本政府に、政治的實權無かりし事實を、國民に明らかにせず。占領軍統治の實態の知らるるに至らば、獨立の實を擧げん爲、政權交代要求の聲高まるを恐れたるべし。


 岡崎幹事が書に、卓拔なる吉田茂評あり。政治評論家阿部眞之助の評言なり。我等と變らざる「中位の人物」なりと評す。吉田の生前、謦咳に接したる經驗有る者に、異論無からむ。阿部言外に、國の宰相たる者、凡庸の材にては適はずとせり。されど近年の日本の宰相に凡庸の材ならざる者、寥々たるに非ずや。蓋し阿部が言、今昔の感に堪へざらん。


 吉田は凡庸の材の本性に違はず、政權に拘泥し、占領期の延長なるが如き體制を繼續せり。漸く國民の意志貫徹し、吉田の政權より追はるるは、二年半の歳月の後なりき。


 心理學專門家は知るべし。精神的外傷の治療、早期に始むるこそ宜しけれ。占領期の負の遺産の、獨立回復後二年半維持せられしは、長く精神的外傷を存續せしむる因となれり。日本人の意識に、占領期の植民地的情況續き、占領期と獨立後と、明確に劃定せらるること無かりしは、吉田が責任なり。


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