加藤淳平 - 日本の文化傳統、如何にして切斷せられしや(後篇)- 二十三
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや(後篇)
                  加藤淳平


二十三 「國際化」熱の弊害


 「國際化」熱、日本社會を變容せしめ、數多の弊害を齎せり。戰後續きし自文化への自信喪失、之に因りて更に進めり。日本は「國際化」せずんばあらず、日本人は歐米人の如くなるべしとの強迫觀念、日本人に取憑き、歐米の文化と價値觀、即ち世界の文化、價値觀に、日本を同調せしめんとせり。日本のアジアの一國にして、歐米と文化を異にする國なりとの感覺失はる。


 日本人特有の氣質、日本人らしき心のあり方、なべて價値低きものと見做し、否定す。日本人自身、自らが日本人的氣質に自信を持得ず、時にそを恥づ。人に對せる日本人の濃かなる氣遣ひ、人の心の動きを讀む勘は評價せられず。日本人の生眞面目なる職人氣質、「ユーモア」の缺如なりとて批判的に見らる。此の結果、日本社會に自然に存せる人と人の關係の規律無視せられ、そを守らんとする力、守らせむとする力、共に弱まりぬ。


 就中英語熱、日本人の國語を驅使する能力を低下せしむ。學校教育に於る英語の過度の重視は、國語、漢字の教育を疎かにす。廣告、政府公式文書に、言葉の實感無く、意味亦正確に理解し得ざる儘、英語の單語、無制限に使はれ、日本人の正確に言葉を使ふ能力を低下せしめたり。


 言語能力の低下は、さなきだに弱き戰後日本人の思考能力を衰頽せしむ。已にして米占領軍の洗腦と「戰後思想」の、日本人の言語・思考中樞に打撃を加へしは前述す。「國際化」熱と英語熱、日本人の抽象的思考能力と想像力に、最後にして、最大の打撃を加ふ。日本人の視野、亦言語能力、思考能力の低下に因りて狹搾せり。


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