加藤淳平 - 日本の文化傳統、如何にして切斷せられしや(後篇)- 二
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日本の文化傳統、
     如何にして切斷せられしや(後篇)
                  加藤淳平


 占領期の總括(一)六年半の植民地支配


 一九四五年九月より一九五二年四月まで、六年半以上に亙りし占領期を總括せば、短期間なれども、米國に依る日本の植民地支配なりしと言ふべけむ。マッカーサーの下に、軍關係者と民政關係者の構成せる總司令部は、總督と、植民地統治の爲の軍事機構と政治機構を彷彿せしむ。軍關係者は優秀なるも、民政關係者は二級人物の集りにして、腐敗せる樣、植民地統治機構の常例に倣へり。


 斯の畢生の名作「戰艦大和の最後」、占領初期に總司令部檢閲部長より、問答無用なりとて、發行禁止を申渡されたる後、著者吉田滿、檢閲の事前檢閲の事後檢閲に移行せる機を捉へ、再度刊行を企てたり。未だ刊行に至らざるに、米國中央情報部(CIA)の知る所となり、總司令部檢閲部に召喚せらる。一度發行禁止となりたる著作を、刊行せんとするは不埒なりとて、罪人の如く糾問せらる。されど獨逸人の知人の介入し、著者の爲に辨ずるに及び、檢閲部の米人將校忽ち態度を改めけりとぞ。相當部分の削除は免れざりしも、刊行を許可せらる。


 是れ米軍の占領の、植民地支配に近似せる性格を表す好例なり。第二次大戰前の植民地支配は、啻に植民國の支配たりしのみならず、植民國民と肌色を同じうする白人に因る支配なりき。インドネシアは小國オランダの植民地なりしかば、植民地官吏、總督府の用務に從事せる民間人に、オランダ人以外の歐羅巴人數多ありき。現地人、植民國人たるオランダ人のみならず、特權を享受せる他の白人の頤使にも甘んず。米軍の日本統治にありても、獨國は米國の敵國なりしと雖も、獨國人は白人なれば、日本人と同列には扱はれず。


 占領期の我ら日本人亦、植民統治の如き支配の下にありき。政治的自由無かりしのみならず、歐米の文化と價値觀を強制せられ、歐米の白人に劣等感を抱かしめられたり。世界の植民地たりし國を見るに、獨立戰爭を戰はずして、舊植民國より獨立を與へられたる國、植民地遺制を拂拭し得ず、政治的獨立後も植民地の情況繼續す。日本も舊植民國より獨立を與へらるたるに近く、占領期短かりしに拘らず、植民地遺制が如きもの今日に殘存す。


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