加藤淳平 - 日本の文化傳統、如何にして切斷せられしや(前篇)- 十四 |
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日本の文化傳統、 如何にして切斷せられしや(前篇) 加藤淳平 十四 検閲の内容 總司令部が檢閲方針を明示せる規定は、「嚴に眞實に即す」、「公共の安寧を害すべからず」等、如何樣にも解釋し得る曖昧なる表現なりき。解釋權、檢閲當局に在りしに因り、檢閲當局に實際上爲し得ざる事無かりき。檢閲の存在自體、祕匿されし故に、恣意的檢閲の被害者は救濟を求むる手段を有せず。 檢閲に因る削除、掲載禁止の對象事項、次の如し。總司令部、占領軍、東京裁判の批判、聯合國と其が戰前の政策(特に植民地政策)に對する論評、司令部の憲法を起草せる事實、檢閲の存在、占領軍兵士の日本女性との交渉、闇市、飢餓への言及、戰爭擁護、日本の民族主義・亞細亞主義の鼓吹、「大東亞戰爭」、「大東亞共榮圏」なる語の使用等々なりき。之等要檢閲事項及び檢閲方針、檢閲員に内々に示さるるも、檢閲を受くる側には周知され居らず。 検閲手續の施行は米國式に嚴格なりき。被檢閲者側の都合は一切斟酌されず。斯くして檢閲を受くる出版社等、時間的制約に縛られたる故に、予め檢閲者が意向を容れ、自己檢閲に因り時間を節約せんとせり。蓋し自己檢閲は、檢閲が嚴しさを緩和する最も簡便なる手段に非ずや。檢閲の長年續く間に、上記諸事項は、記者、著者、出版者らの活字とせざるを賢明なりとし、明言を避くる禁忌事項となりぬ。 ▼ 十五へ ▼「侃々院」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |