逆旅舎>泰通信 第六號
推奨環境:1024×768, IE5.5以上





泰通信 (第六號)


         平成十七年一月  大口 童遊


ツナミ tsunami (今や泰語にても「津波」)


 死者不明三十萬人を超す史上最惡の津波禍は、「津波」なる國語を世界共通語となせり。泰にても新聞テレビは「ツナミ」と報道す。 津波を知らず、津波の概念なき故なり。


 平成十六年十二月二十六日朝八時(日本時間十時)インドネシア沖にて發生したる地震の結果、史上最大規模の津波印度洋沿岸を襲ひ、 地元インドネシアの二十三萬人弱を別にして、スリランカ四萬餘人、印度二萬人弱、泰一萬人弱等の死者不明者を出せり (數字は一月二十五日現在)。沿岸漁村民の他、瑞典、佛蘭西等、嚴冬の歐州を逃れ休養中の白人數萬人も犧牲となる。 泰にては世界有數の「海の樂園」プーケットと周邊行樂地襲はれ、犧牲者の三分の一は歐州人なり。邦人は百人以下なれど、 この正月日本からの豫約客四萬人と傳へられし故一週間遲かりせば犧牲者幾萬人を算へむや。


 余の居住せる首都盤谷(バンコク)よりは南西八百七十粁。印度支那半島の反對側(西岸)の出來事にてもあり、 壹岐對馬の津波を東京にて聞く感じならむか。されど地震當日、盤谷の高層ビル二十階以上はかなり搖れ、 地震未經驗の住民は恐慌を來せりといふ。震源までの距離は千數百粁。例ふれば台灣近海の地震により東京のビル搖れるが如し。 因みに盤谷市内高層ビル群の耐震設備は全くなしと聞く。


 泰政府は年末三日間の服喪と、正月の派手なるカウントダウン、打上げ花火等の自肅要請を發表、 何時になくひっそりとせる正月なりき。


 プーケット島一帶への津波襲來は朝十時。地震發生より二時間を經たるも津波情報なかりしは日本的常識にては不可解なり。 観光への影響を懸念して警報を控へたり等「人災」説もしきりにて、政府は辨明に努めをるやうなれど、有史以來大地震なく、 津波の概念さへ無かりし國に對策を求むるは酷ならむか。タクシン首相は、警報出さざりし氣象局長を更迭、 警報システムづくりに取組むとの報道もあり。


 觀光も重要なる收入源たる泰國は、一昨年はSARS、昨年は鳥インフルエンザにて觀光客減に見舞はれ、 今囘が連續三度目の打撃なり。日本より泰國の津波被害に對しても五億圓の援助申出ありしがタクシン首相、 より被害大なる國へ廻し給へとて斷れる由、もはや途上國に非ずの心意氣と傳へらる。


地球ひと搖れ命はかなき初茜  童 遊





▼ 第七號へ
▼「逆旅舎」表紙へ戻る
▼「文語の苑」表紙へ戻る