逆旅舎>泰通信 第五號
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泰通信 (第五號)


         平成十六年十二月  大口 童遊


フォン・マイ・トック fon mai tok
(タイ語で「雨降らず」の意)


十一月に雨季明け、「乾季(涼気)」に入る。毎日、最高三一、二度、平均二六、七度の過し易き晴天續く。再び暑くなる三月までは、およそかくの如き具合ならむといふ。


さりながら今年は、九月以降は雨らしき雨降らず、雨季はいづこに、の感あり。昨年は雨季の最後はじめじめと長雨續きたりといふ。


このじめじめ自體、タイの雨らしからずとタイ生れの朝日新聞社顧問・瀬戸正夫氏は言ふ。日に一度、十分ないし二十分豪快に降りてこそ本來のスコールなりと。


「當時のスコールは今のやうな弱弱しげなものではない」――四十年前タイに渡り「バンコク週報」を創刊せる山本みどり氏(本年七月死去)四年前出版のエッセーの一節なり。


「毎日午後三時頃になると、一天にはかにかき曇り窓といふ窓が突然にガタガタとひしめき、邊りは夕暮のやうにくらくなつた。と途端に小石のやうな雨粒が天の水槽を覆したといつた感じで襲つてきた。何故かこの自然の營みは十分前後の誤差で確實に繰り返された」(引用文の表記は本文に統一)


余もスコールは六〜八月に經驗せるも、さほど激しきものは滅多になく、それも二、三日に一度の程度なりき。


前記瀬戸氏によれば、泰國内の森林はこの三十年間に三割は消滅、都市化による炭酸瓦斯、車の排氣瓦斯の影響等相俟つて熱帶の氣候は明らかに變化しつつあるといふ。


今夏は日本も異例の酷暑に見舞はれしやうなれど、やはり地球的規模の氣候異變なるらむか。


佛國の空はれわたる神無月     童遊


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