逆旅舎>泰通信 第三十號
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泰通信 (第三十號)


         平成十九年十一月  大口 憧遊


チェンマイの世界相撲大會


 のこつた、のこつた……。白洋服、白手袋に身を固めし行司の張りのある聲、大室内竸技場の特設相撲場に日がな一日響き渡れり。所は泰北部の古都チェンマイ。十一月十八日に催せる第十五囘世界相撲選手權大會は、日本以外の亞細亞にては初めての開催(獨逸、ポーランド、伯西爾に次ぎ六番目)にして世界三十ケ國の強豪、重量別個人戰と國別勝拔き戰を戰へり。


 ムエタイ(泰式足蹴り拳鬪)は聞き及べども、泰に相撲ありとは知らざりきと思ふ向きは多かるらむ。今囘世界大會引受けの中心なるは倉澤澄夫・泰相撲聯盟會長(泰東京堂書店社長、六十五歳)、高校生時代の相撲部の友人の勸めにより泰に於ける相撲の普及を思ひ立てるは第一囘世界選手權(平成四年、兩國國技館)の後なりき。


 柔道關係者を訪ねて相撲希望者を探し、平成十三年には盤谷にて「亞細亞相撲選手權大會」を開催。昨年は私財千二百萬圓を投じて盤谷に土俵を作り、毎日曜日、泰の若者による練習を本格化す。


 この勢ひに彈みをつけんものと盤谷日本人商工會議所の支援も得て世界選手權大會開催を引受く。


 もとより「世界」の壁は厚く、團體戦は一位露西亞、二位日本、三位蒙古なりき。露西亞、獨逸、和蘭、ポーランド等巨體を誇る歐州勢の中にありて、小兵の日本勢の強さはさすがなり。同樣に小兵なる泰選手は振はず、やうやく「八位以内」に食込む。「されど亞細亞にては三位なり。今後も地道なる稽古を續け、泰の相撲を盛にせむ」とチャッカラポン主將(三十一歳)は眞劍なる面持にて決意を語る。倉澤氏の蒔きつゝある種の實る日期して待つべし。


 さるにても筆者の孫、東京の幼稚園生なるに、近所のムエタイの練習場に通ひ始めたりとぞ。泰に相撲を廣めむとする日本人あれば、泰の挌鬪技を習はむとする日本人あり。それも我が孫なりとは。げに世は樣々なりと云はむか。


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