逆旅舎>泰通信 第二十八號
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泰通信 (第二十八號)


         平成十九年九月  大口 憧遊


泰人の小倉百人一首


 むらさめの――讀始むるや否や目にも止らず選手の手走りて取札はね飛ぶ。電映放送等にて馴染みの向きも多からむ、百人一首かるた竸技會風景なり。されど此處は泰の首都盤谷、札取るは泰人、と聞きて讀者諸賢は大いに驚かずや。七月末に催せる第二囘小倉百人一首盤谷かるた大會の泰人の部は、外國にて外國人の行ひし世界初の公開かるた竸技會なるらむ。


 主催者「クルンテープかるた會」(クルンテープは泰語にて盤谷の意)代表ストーン睦美氏は日本かるた協會五段。米國人の夫君の轉勤にて一年半前に來泰。盤谷にかるた竸技を普及せしめむものと週一度の練習會を始む。今年一月には日本より有段者二名を迎へて泰初の公開かるた竸技會を開き、邦人五十名ほど參加す。


 されど今年は日泰修好百二十周年なる故もあり、泰人にも百人一首を普及せしめむと思ひ立ち、今年六七月にかけチュラーローンコーン大學とタマサート大學を歴訪、日本語學科の學生それぞれ八十名、六十名に對して百人一首かるたの歴史と竸技法を講義、かるたの散らし取りを實施せり。


 一方、睦美氏の弟子坂東眞由美氏が日本語教師を務むる私立ワタナー校に五月、女子中學生によるかるた倶樂部誕生。外國人によるかるた倶樂部は、これも世界初なるらむ。ここにても練習會を開き、かるた竸技會への參加を呼び掛く。


 假名さへ得讀まば參加可能――を謠ひ文句に、初めて「泰人の部」を設けし第二囘大會には泰人學生十三名參加せるも、優勝せしチュラー大四年生アナン・パンソンブーン君の成績は豫想を超ゆるものなりき。ひと月前の散らし取り實習の後、電網より百首を取出してかるたを自作、全部をほぼ暗記す。當日は、上の句を讀上ぐる間に下の句の札を取り、五十枚中三十枚を一人にて攫ひ壓勝。二位三位はワタナー校の中高校生なりき。アナン君はその後、毎週の練習會にも參加して意欲滿々。


 ワタナー校かるた部の練習も軌道に乘り、十月半ば狛江市にて開かるる南多摩かるた大會に八名の參加が決定。日本に於るかるた竸技大會への外國人の參加はこれも初めて。泰人の中よりかるた竸技選手を育つること――といふ睦美氏の夢は着々實現に近づきつつあり。


 夫の轉勤にて九月末北京へ移住する睦美氏は、中國にてもかるた竸技普及に努めむと情熱を燃やす。來泰の前にも夫君の任地英國、カザフスタンにてもかるた紹介の催しを開けり。獨力にて日本の傳統文化の傳道に努むる女戰士に心よりの激勵を送りたきものなり。


  外國(とつくに)の行く先々に歌かるた
   倦まず傳ふる君ぞ雄々しき
   憧遊


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