逆旅舎>泰通信 第二十三號
推奨環境:1024×768, IE5.5以上





泰通信 (第二十三號)


         平成十九年二月  大口 憧遊


爆彈テロ渾沌


   腹立たしテロより記す初日記  憧遊


 かくの如く詩情乏しき句を詠む目出度からざる正月なりき。昨秋、十五年ぶりのクーデターにより軍部主導政權へ移行せる泰の首都盤谷にて、大晦日より元日にかけ爆彈テロ發生、市民、外國人等四十餘名の死傷者を出せり。犯人未だ判明せず、泰紙は搜査方針を廻る軍部・警察間の暗鬪をさへ報ず。盤谷等の戒嚴令は解除せられ、市内は從前に變らぬ平穩續く一方、暫定政府の人氣は下落、政局見通しも不明。今年は國王八十歳を迎へられ、日泰修交百二十年に當る等、目出度かるべき年なれど、泰社會の現状は何やら不透明かつ、ちぐはぐなり。


 泰史上初の無差別爆彈テロの發生は大晦日夕方。都心部と郊外の六ケ所にて爆發、通行人等三名死亡、三十數名負傷。日本にても紅白歌合戰の中繼テレビにテロップ流る。更に元日未明、レストランにて爆發、カウントダウン祝會中の英國女性ら歐州人六名負傷、併せて世界中に大きく報道せらる。恒例のカウントダウン行事妨害を狙ふ厭がらせ行爲にて爆彈の威力はさほどならず、偶々近くにゐて死傷せる人々は不運と言ふべきか。


 犯人については當初より(一)馬來國境のイスラム系過激獨立派(二)國外「亡命」中のタクシン元首相派の軍關係者――の二説あり。


 これまでのところ軍政府は(二)のタクシン派説を取り、警察と法務省特搜局は(一)の南部過激派説に傾く。かかる中、タクシン寄りと看做されし警察廳長官は搜査失敗を理由に更迭、軍政府は元敏腕搜査官を長官代行に起用す。


 今囘の爆彈テロ、タクシン派の厭がらせならば根は淺く再發の可能性も低からむが、南部過激派ならば簡單には收束すまじ。深南部三縣にてはここ數年テロ續き、タクシン政權の強壓策を原因と見る暫定政府は宥和策を取れど一向に好轉せぬが故なり。


 「微笑みの國」と言はれ、東南亞細亞にて最も安全なる國との泰の印象は、クーデターに續くテロにて大きく搖らぐ。外國よりの投資は半減。テロによる觀光客への影響は意外に少なきやうなれど、春休み、五月連休への影響は心配なりと聞く。民主的手續を無視せるクーデターのつけは大なりと言ふべし。


▼ 第二十四號へ
▼「逆旅舎」表紙へ戻る
▼「文語の苑」表紙へ戻る