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泰通信 (第十六號)


         平成十八年一月  大口 童遊


燒酎里返り
Lao khaaw klap Baan kuard(ラオカオ クラップ バーン グア--ト)


 第二次燒酎ブームといふ。沖繩の泡盛を燒酎起原の一とする説は知れど、その泡盛、十五世紀アユタヤ王朝時代のシャム(泰の古名)より蒸溜技法泰産米と共に渡來し、且つ今も泰産米より造るを知るや。


 熱帶の泰に釀造酒育たず、酒と言へば屑米或いは砂糖黍絞かすを原料とするラオ・カオ(白き酒、澄める酒)なり。地方にて愛飮するも酒精度三五〜四○。小壜一本百五十圓以下の安さなれど純度低く臭ひきつく舌を刺し、首都盤谷の中流市民は敬遠す。歐風化進む首都は麥酒黨急増、國産のビアシン、ビアチャン、外來のハイネケン、アサヒ等人氣あり。金持は洋酒も嗜む。


 かかる中に最近、泰産米を用ゐ純度高き燒酎を泰にて製造、日本料理店等に卸す邦人酒造家現れ話題を呼ぶ。


その一つ「南蠻古酒」と名付くる高級燒酎は、泰産もち米を用ゐ小壜一本約二千四百圓と洋酒竝みの値段なり。酒精三○度を感ぜしめぬまろやかなる味にて、もち米を用ゐる燒酎は日本にも殆どなく、甘き香を特色とす。


 當面の標的は在泰邦人の由なれど「謂はば古代泰燒酎の里歸りなり。泰人にも、自國にてかかる美味なる燒酎の生産可能なるを知らせまほしきもの」と製造元のサイアム焼酎社長は語る。


 泰人は酒嫌ひと感ずる人あり。佛教國泰は、信者一般の守るべき戒律五つの中に「禁酒」あり。年に何日かの佛教記念日と國王、王妃の誕生日は禁酒日、更に國政選擧前夜と當日は法律にて飮酒を禁ず。故に眞面目にして高教育の泰人は酒を飮まぬといふことなるらむか。


 されど他方、泰國民一人當り酒精年間消費量は十三・六リットルにして世界六番目(日本は九リットル)とする報道あり。また「猫にマタタビ、泰人に酒。飮めば底なし」と言ふ人あり。


 酒の體内に作り出すアセトアルデヒド分解酵素を持たぬ人(下戸)の割合は、中國人と日本人四割五分に對し、泰人は一割(歐米、アフリカ人は皆無)とする統計もある故、泰人に酒飮み多きことこそ眞實なるらめ。片や酒飮まぬ小數教養人、片や呑ん兵衞大衆――の構圖なるらむか。


 泰産高級燒酎の前途も一筋繩にては參らぬやうなり。


この記事は、泰の邦人紙〈the Voice Mail〉平成十七年十二月七日號「タイ産燒酎特集」を參考とす。


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