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泰通信 (第十五號)


         平成十七年十二月  大口 童遊


國王誕生日 ワン・ポー Wan Phoo


 十二月五日は泰國王誕生日にて祝日なり。泰人はこの日を「父の日」と呼び、今年は土日に續く三連休となる。我が住宅團地を始め街なかの各處に三色の國旗と黄色の國王旗はためく。


 プーミポン國王(ラーマ九世)は七十八歳、來年は在位六十年を迎へ、存命中の在位最長國王としてギネスブックに載る。因に、それ以前の最長記録は在位六十三年の昭和天皇なり。シリキット王妃は七十三歳。八月十二日の王妃誕生日は同じく「母の日」として、泰人は各自母親にジャスミンの花を贈る。


 中國東南部より千年以上の年月をかけ南下を續けしタイ民族は、十三世紀に今の泰國中央部にスコータイ王朝を建設、アユタヤ王朝(十四―十八世紀)、トンブリー王朝(十八世紀)を經て、十八世紀末、盤谷を首都とする現チャクリー王朝となる。明治天皇に比さるゝチュラロンコーン國王(ラーマ五世)は泰の近代化と絶對君主制を確立せるも、その子ラーマ七世治下の一九三二年、クーデターにより立憲君主制に移行す。


 泰國憲法は「國王を元首とする民主主義體制」を謳ひ、信教の自由を保障すと雖も、國王は「佛教徒にして宗教の擁護者、泰軍大元帥」と定む。政治には直接關與せざる建前なれど、政府による一昨年の痲藥撲滅大作戰は國王の憂慮表明に端を發す。昨年はテロ續く南方三縣の治安對策にも國王よりの要請あり、朝野になほ大いなる影響力を保持せらる。


 國王は昨年來の水不足に親しく降雨實驗に取組む等農業開發に力を注がれ、王妃も農村女性の手工業育成等に長年盡せらる。このため泰人の王室に對する尊崇の念厚く、商店の多くに國王と王妃の寫眞掲ぐるを見る。戰前の日本を彷彿す。


 日本にては政權黨幹部による「日本は天皇中心の國」發言を問題視する報道(十二月六日付)あれど、泰國は「國王は國會、内閣、裁判所を通じて主權を行使す」なる憲法の規定を俟つまでもなく、「國王中心の國」と言ふべきなり。


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