逆旅舎>泰通信 第十三號
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泰通信 (第十三號)


         平成十七年九月  大口 童遊


バス王國(ムーアン・ロトメー) Muang Rot Mee


 今年四、五月、盤谷路線バス二度に亙り一バーツづつ値上げさる。此の泰通信第二囘に物價安の代表としてバス代を擧げし筆者には 衝撃なり。値上の結果、安き「赤バス」は全區六バーツ、やゝましの青バスは七バーツとなる。日本圓にすればなほ僅か十五圓ほどなり。 馬鹿安には變りなし(數は少なけれど大型冷房バスもあり、距離により二十圓乃至四十圓ほどなり)。値上理由は石油高騰なれど、 泰國の經濟成長率(年六乃至七パーセント)を考ふれば、昭和三十年代後半の日本を想起せざるを得ず。 四五年後には倍の値なるやも知れぬことなり。


 晝間人口八百萬人、三多摩ほどの廣さの盤谷に、電車はBTS(盤谷輸送システム)なる高架鐵道と昨年開通せる地下鐵のみ。 前者は品川―田端間ほどの一本と東京―四ッ谷間ほどの枝線あるのみ。地下鐵は銀座線ほどの一本なり。美麗にして冷房車なれど、 バスより割高の故もありて庶民の主たる足はなほ路線バスなり。二百系統ほどの大中小のバス市内を縱横に走る。


 バスに車掌あり。硬貨の詰る金屬筒を打振り鳴らしつゝ乘客の集金に來る。日本の曾ての可憐なるバスガールとは 樣變れる逞しきタイ女性の、粗末なる制服を着つつも粗暴運轉に搖るゝ車中滿員の乘客を掻分け掻分け集金の重勞働をこなす 風情なかなか若きタイの活力を見る思ひす。


 安き赤バス青バスは窓は開放しにて、澁滯に出くはせば暑さにうだる。時に座席の背に團扇のぶら下がるを見る。


 筆者の一句――


     澁滯に赤バスの這ふ炎暑かな


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