逆旅舎>泰通信 第十二號
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泰通信 (第十二號)


         平成十七年七月  大口 童遊


カオ・パンサー (安居入り) khaw phansaa


 歳時記に「安居(あんご)」なる季語あり。夏安居(げあんご)、夏行(げぎょう)などとも言ひ 「陰暦四月半ばより七月半ばまで一夏(げ)九十日間、僧侶一室に籠り精進修行すること。 梵語の雨期の意にて古代印度の習俗。日本にては古く宮廷に始まり一般佛家に及ぶ」と説明さる。


「夏行とも又ただ日々の日課とも 高濱 虚子」の例句等を見れば、戰前までは一般に見られし習俗なりしか。 されど今日、「安居」を知る日本人ありや。俳句に詠まれしも知らず。死語に近きものに非ずや。


 しかるに國民の大半佛教徒なる泰國に於ては、安居入り(泰暦八月下弦、新暦七月下旬)は國祭日なり。 且つ別の佛教行事「三寶節」と續く連休となる。日泰の安居期間のずれは雨季(泰は七〜十月、日本は梅雨)の差なるらむか。 泰にては、全ての男子は一生に一度出家の義務あり。而してこの日は、僧のみならず一般庶民も、家族、親戚、友人、 會社の同僚のいづれか出家する日なり。關係者集ひ食事をして祝ふ。


 出家の目的は親孝行なり。男子出家せざれば兩親成佛できずと信ぜらるゝ故なり。出家の期間は人により異り、 通常一週間乃至二、三ケ月といふ。役所、會社等にては、この間を有休休暇とする習はしと聞く。


 三月後の十月末、「安居(あんご)明け(オーク・パンサー)を迎ふ。僧衣を喜捨する行事あり、僧の外出、 還俗も自由となる。庶民は飮めや歌への喜捨行を樂しむ。


 昨秋、筆者の一句――


   安居明けパソコンショップに僧衣群


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