愛甲次郎◆中国紀行
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『中国紀行』(平成十六年五月) 愛甲次郎


  第一回


 平成十六年五月経営文化フォーラム主催の中国研修旅行に参加す。同フォーラムは毎 月学士会館にて開催せらるる経営者の勉強会にして春季に中国研修旅行を行ふを慣ひ とす。本年は殊の外参加者寡く僅か三人にて淋しきこと限りなし。中国専門家を講師 として同行するを常とせるも此度は経費面よりそれも叶はざりけり。余の他参加者は 通産省の先輩にして元商工中金理事長の宮本四郎氏、元警察庁幹部にして現NEC常務 の大森義雄氏、加へてフォーラム事務局の山崎氏之に同行せり。山東省に曲阜、泰山 を訪れ、次いで重慶に飛び、三峡下りのクルーズに参加、荊州、武漢、上海を経て帰 国と言ふ行程にして中国の歴史に縁ある地を回らんとするものなり。
以下はその記録なり。



◆ 四月三十日



 常ならぬ早朝起床の為か迫り来る睡魔と闘ふうち列車は成田空港に着きぬ。出国の手 続旧に比し著しく簡にして、搭乗まで一時間を超ゆる余裕を生ず。傍らの中国人旅客 の甲高き話声に国境を後にするの感一入なり。機上に摂れる葡萄酒の效きたるにや朦 朧として時の過ぐるを知らず。やがて煙雨の中上海浦東空港に降り立つ。近代的施設 なれど空調宜しからずその蒸すこと衿下に汗ばむほどなり。


 されど出迎への王と称する案内人の曰く、この雨に因りて前日よりは涼しと。是非と の勧めにて直ちに磁懸浮列車なる物々しき名の高架鉄道に試乗す。所謂リニアーモー ターなり。正式営業開始は数ヶ月先なるも駅にはあまたの観光客集ひ居たり。最高時 速四百数十キロに達する高速にて約八分にして浦東の中心に至る。迎へのマイクロバ スに乗換へ虹橋の国内空港へ向ひしが、渋滞の中を二時間余を費したり。磁懸浮列 車、浦東虹橋両港を直接結ばば良かりしものを。


 この旅行の最初の宿泊地は山東省の済南なり。済南空港に待受けしガイドは同姓の王 氏にして島根県浜田市にて一年間研修を受けたりと言ふ。中国の制度においては旅行 中一貫して同伴すべきガイドの外にそれぞれの土地において別個の地方ガイドを雇ふ を要す。日本語流暢にして説明要領を得たり。市の中心に向ふバスの中にて日中比較 論を展開す。中国の日本に比し有利なる点として国家権力の強大なるが故に経済建設 の効率良きこと、男女交際に関し未だ庶民の保守的なることを挙ぐるは注目すべきな り。中国に於ては外国人向ガイドは一流大学出も多く教育水準、所得共に平均を超え て高し。宿舎はソフィテル大銀座飯店と称し華僑資本の投資によるものなり。



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