安東路翠 [諸葛亮]三 |
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『諸葛亮』 安東路翠- 新作能 謠曲 - 三 中國遺跡にて「諸葛亮」一番を 峨眉山上に建立 霞も消えて黄角樹の竝み立つ古きそのもとに水音も速き青衣川、山の繞りぞ見え隱る。 思ひしらずも迷ひゆく峨眉の麓下に珍しの本草(くさ)の靈の賣られゐて、蜀錦を纏ひ、旅をしのびて蜀茗を喫む。紅珠山上夏日濃く、白百合、花茨、清坐(せいしやう)花、湖をめぐりて蝉降るごとし。紅樹の高きに見え隱る細き梢の禽鳥は、氣高く美(は)しく華やかに、雅びに脆き花の坐にましまして、日月星と三光をたたへしいかなれば和して歌ふも 陛下應へず。 水簾懸る水路をゆくに大いなる奇岩あらはる。臥龍とて水に横たひ潤して、清き流れに臥し坐す、たぎつせせらぎ濯ひたる、五層紋をなす潭石の、八尋の長き巨石なる、龍門洞をはひ出でし、龍にもたれて溪風の、あらひし峰に尋ぬるも 先帝に應へなし。 峻峭いよいよ徘徊(めぐ)り過ぐ、木下に闌けて石楠花(しやくなげ)の、古樹に紅白立ち香る、幽邃池の蓮のごと、寂しきさまのならびなき、 ここなり一目千本の、石楠花の溪なり。仙石多かりといへども驀然としてのぼり覽るに、絶快言ひ盡せじ。先帝まさに見給ふか 幽花亂るも應ふるなし 嶮路をゆくに あれなるや、成都の太竹二本持ちたる男二人見ゆ。 吾れこそは峨眉山にすまひせる雲中助衆にて候。嶺上氷とざし雪降れり。來りて竹棹の籠に乘れ、鴃觜きこと風のごと山上へ案内せり。 望み見るに嶺とてみえず、されど雲海の彼方憶ふ人の面影ありや、誓ひのまことあらばや、案内せさせ給へ。 ▼ 四へ ▼「逆旅舎」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |