愛甲次郎 - 見えざる文化(知られざる叙事詩) - 連載第四回 空ろに響く呼声 |
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見えざる文化(知られざる叙事詩) 連載第四回 空ろに響く呼声 ラーマーヤナは広く東南亜に流布し、舞踊、演劇、影絵芝居、壁画等の主要テーマとなれり。試みに泰国、カンボジア、インドネシアよりラーマーヤナを取り去りて見よ。蓋しその文化的伝統の主要部分は失はるるところとならむ。西遊記に登場せる孫悟空はラーマーヤナの巨猿ハヌマーンに源を発し、また猿や雉を伴ひ鬼が島を征伐せし我が桃太郎の説話にもラーマーヤナの影響疑ひこれなかるべし。 不可解なるは、印度亜大陸、東南亜にてかかる強烈なる文化的影響力を有し民衆のみならず欧米の教育を受けたる知識階級をも興奮せしむるかの二大叙事詩の、日本に於ては聊かも知られざることなり。クウェイトより帰りてのちその日本語訳を書店にて見出すに至って難儀せり。八重洲の著名なる書店に於て女子販売員、遂にその詩の名を正確に発すること能はざりき。 第三世界、発展途上国との相互理解の必要なること、説かるるは久し。されどそは依然抽象論なり。「心と心」の呼声ただ空ろに響く。亜細亜の民衆の精神生活に深く係れる二大叙事詩、中学、高校の教科書に於て何時の日か然るべき扱を受くることならん。 ▼「逍遥亭」表紙へ戻る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |